『魔人探偵脳噛ネウロ 最終話 謎【まじんたんていのうがみネウロのゆいいつにしてさいこうのしょくりょう】』 松井優征

世界は…「謎」で満ちているんだから


完結。
読み終えて数時間が経過した今でも、原因不明の震えのせいでマトモに動くことが出来ません…。


初めてネウロを読んだとき、自分はまだ中学生でした。床屋の暇つぶしでふと手に取った取り置きのジャンプに、まさに連載が開始された第一話が掲載されていたのでした。
他の連載作品とは一線を画す、パースが狂ったような奇っ怪な絵柄。謎を喰うというミステリチックな、しかしそれでいてミステリの皮を被った単純娯楽漫画と作者が豪語する、禁じ手お構いなしのストーリー。あっという間にファンになったのはいいのですが、最初の一年間はジャンプの中程から後ろの方をふらふらしていて、いつ打ち切りになるんじゃないかとハラハラしていました。こうして、すべてを描ききっての結末を見ることができるとは…感慨深いです。



最終話の舞台は、前話から3年後。19歳になり、人を『探偵』する名探偵として、海外を飛び回る弥子が描かれます。最初は脅し、途中から興味を持ち始めたものの、あくまでネウロの隠れ蓑として探偵を務めていた彼女が、完全に自分の意志で自立して探偵しているのは、やっぱり胸に来るものがあります。ていうか放浪中に身ぐるみ剥がされたって!聞き捨てならん…!ほんと、この娘はどんだけ強いんだ。いや、きっとますます強く進化した、ということなんでしょう。
ネウロの面白い要素と言えば、悪の根絶が目的ではない、ということでしょうか。何しろ、ネウロの食料である謎は、悪意から生まれないといけないのですから。謎を喰うために一人一人は叩きのめしますが、悪そのものを根絶やしにするのが最終目標では、決してないのです。更に、この最終話では、弥子の独白として、
「人間の知性の結晶である謎は魅力的ゆえに尽きることがない=犯罪者も尽きることはない」
「謎の生成=人間の進化には『知性』『向上心』『悪意』の三つが、どれが欠けてもいけない」
と、悪が進化に必要不可欠なことが、最終結論として語られました。
他ジャンプ作品では類を見ないほどに、人間と悪意の共存が強く押し出されている。『絶対悪』との戦いを乗り越えた後に、この物語が『必要悪』という結論へ着地するのは、大変興味深いことだと思いました。
そしてもう一つの魅力は、すべてを明示しないこと。小ネタやパロディもそうなのですが、ネウロは、様々な要素を黙して語る構成になっていることが、非常に多いです。キャラクタのセリフや、意味深なイメージ画像。それらを統合して深読みすると、思いがけない松井先生の思惑を感じ取れることもよくあること。読みふけって想像に耽るのも、毎週の楽しみでした。


思えば、この作品の第一話のタイトルは『手』でした。そして、物語を締めくくるのは、ネウロの手の大写し。数ある生物の中で、手を持つのは人間だけ。手によって始まり、手に終わったこの作品は、まさしく進化を象徴していたのでしょう…というのは、やはり妄想が過ぎるかなぁ。


完の一文字で、完全に終止符が打たれたネウロですが、ストーリー的には残したモノも非常に多いラストでした。結局究極の謎が見つかることはありませんでしたし、あかねちゃんの謎も未解決のまま。キャラクタそれぞれのその後も大して描かれず、葛西は復活し、ネウロの帰還によってこの物語は幕を閉じます。でも、それもいいんじゃないかな、なんて思ったりもしました。人間の無限の可能性、進化を描き続けたこの作品は、完全に終わるのではなく、これからもずっと続いていくのが、ふさわしい結末なんじゃないでしょうか。


自分が幸福なときも、馬鹿やっているときも。挫けているときも、どん底に追いやられたときも。
ネウロは変わらず不敵に笑っていたし、弥子は進化を続けていました。
初めて熱中し、初めて連載を追いかけた作品である『魔人探偵脳噛ネウロ』。
自分の青春時代を謎色に染め上げ、確実に自分を構成する大きな大きな柱のひとつとなってくれた作品である『魔人探偵脳噛ネウロ』。
四年の月日をかけ、リアルタイムでこの作品の終焉に立ち会えたことが、嬉しくてなりません。
この作品を生み出してくれた松井優征先生に、心から感謝したいと思います。本当にありがとうございましたっ!!!!!!!そしてお疲れ様です!!!!!!!!松井先生のSQの読み切りも、心の底より楽しみにお待ちしています!!!!
と言うわけで、ひとまずはここで、お別れということで。
魔人探偵脳噛ネウロ。堂々の
完。