『電撃コラボレーション 4月、それは──××××』 時雨沢恵一 古橋秀之 鈴木鈴 入間人間 柴村仁 壁井ユカコ 佐藤ケイ 来楽零 渡瀬草一郎 紅玉いづき 藤原祐 中村恵里加 水瀬葉月

ほんの一週間と少し前から、私は生きている人間を見ていない。
桜の樹の下には死体が埋まっている……って、知ってるかい」
「4月なんて大嫌い」
次は八十年分片思いして、八十年分フラレに行こう。
「やぁ、女の子が暴君の腹から生還したぞ」
「……なんとなく理解しました」
「走りてぇ……」
「初めまして、で、いいかな」
すったかすちゃらか、すっちゃんちゃん♪
諦めることを諦めなさい
彼女たちは再び歩き始める。
『元気にやって立派な大人になるんだよ』
「目指せ24時間睡眠」

電撃文庫作家がテーマに沿って短編を書き下ろす、MAGAZINE恒例のコラボレーション企画。今回は一億冊突破記念ということで、文庫仕様のアンソロジーをまるごと一冊、付録にしちゃった☆、というかなり豪華な仕様になっています。
お題は、『4月、それは──』に続く言葉をタイトルとし、その言葉のイメージを元に書かれた短編。そして本文中に五つの言葉『サクラ』『秘密』『ぶっちぎり』『初めて』『プヨプヨ』を必ず使うこと。春という明るいイメージのテーマなので、色恋沙汰が多いだろうななんて思っていたのですが、そこは電撃作家群。自由度の高いお題を思い思いにこねくり回しており、バラエティ豊かな作品集になっています。
以下、それぞれの感想。

4月、それは──旅の始まり 花   時雨沢恵一

トップバッターは、我らが時雨沢さん。考えてみると、こんな風にドストレートな現代劇って、時雨沢さんの作品では珍しいかも。今回は黒い方のイマジネーションがフルスロットルで、しょっぱなから美しく、鬱苦しい場面が目白押し。背景はいつもとだいぶ違いますが、銃だったりバイクだったり旅だったりなのは、やっぱキノの旅を彷彿とさせますね。

4月、それは──永遠のかなたの国 檸檬の週末  古橋秀之

割とスタンダードな学園系。冒頭だけ読むと、またしても後味の悪い話にも思えてしまいますが……いやーやられましたわ……。ちょっと気取りすぎな表現な気もしましたが……物騒な話で例えるって、ほんと洒落てるよなぁ。短いながらも、斜めに構えていてかつロマンティックなお話で、一気に惚れ込んでしまいました。先輩可愛すぎる。

4月、それは──わたしの嫌いな月 地上の翼、人の翼  鈴木鈴

天狗の女の子のお話。プライドが高くて、突っ走り気味なフキがおもしろ可愛い。最後の一文も伏線を上手く回収していて、明るく希望のある作品でした。

4月、それは──寿命。 僕の小規模な奇跡  入間人間

タイトル通り、余命幾ばくもない青年のお話。主人公は相変わらず、どうにもぶっきらぼうな感じなのですが、入間さんの作品としては珍しく、随分と前向きで微笑ましい作品です。分量が少ないのを鑑みてか、いつもと比べるとぎゅるぎゅる文章もだいぶ控えめ。運命、主人公なんていうマジで言うと恥ずかしいフレーズを、斜め上の方向へと持って行く考え方が素敵でした。

4月、それは──きっかけの季節 Run!Girl,Run!  柴村仁

たぶん全作品のなかでは一番ストレートで、模範回答と言ってもいいような感じの短編。ヤケクソになるのって、割と大切ですよね。しかし、アメリカンジョークはイケメンが言うと様になるなぁ…。

4月、それは──多感な季節 わたしが恋したNGINNE  壁井ユカコ

あとがきにも書かれていますが、トリッキーな構成の光る短編。短い中に見事に伏線を織り交ぜて、巧妙に意表を突くお話を作り上げています。切なくて気味悪くて、でも最後にはやっぱり可愛い恋のお話で、ああ良かったなぁと安心してしまいました。人外萌え、激しく同意!

4月、それは──桜舞い散る季節 とある馬と桜の物語  佐藤ケイ

あえて言ってしまいますが、たぶんこの作品はBLなんじゃないかな、と思うw かなり変則的ではありますけれど。なんか色っぽいんですよね、この短編。最後数ページの馬の叫びがとにかく悲痛で胸にきた…。

4月、それは──変化の季節 マトリョーシカ  来楽零

これまたちょっとトリッキーなお話。二転三転する構成は割と楽しめたんですが、短い分量にやや詰め込みすぎな感もあったかな…。

4月、それは──地球侵略の季節 春のうららの地球侵略  渡瀬草一郎

どう考えても他と比べて、頭一つ浮いているタイトル。と言うか、真っ先のこのフレーズが出てくるのは、明らかに頭がアレ気な気が…w アンソロジーの中では唯一の完全なるコメディ作品。どこまで行ってもゆるゆるな内容なので、ブレイクタイムと考えてまず問題ないかと思いますです。

4月、それは──いつか来る春 サエズリ図書館のサトミさん  紅玉いづき

図書館の司書さんと、夢を挫折しかけの青年のお話。いづきさんの小説って、ファンタジーが基本なのですが、現代劇をやらせてもやっぱいいもの書くんだなー。ぶっちゃけた話、既刊三冊より好みかもしれません。最後の最後で明かされる秘密にはあっと言わせられます。こりゃー説得力あるよなぁ。いいお話でした。

4月、それは──嘘の季節 4人の親友  藤原祐

頭のてっぺんから、しっぽのギリギリまで。いや、言ってしまうならあとがきに至るまで、終始一貫ひたすらにドロクロい作品。これがいつも通りの藤原さんなのでしょうけど…この人どんだけ春が嫌いなんだ…。正直な話、ドン引きでした…w

4月、それは──死にたくなる季節 電話の向こうの虚偽と真実  中村恵里加

タイトルからしていきなりアレですが、内容はそうでもなかったり。お婆ちゃんとの会話がひたすらリアルで、文を追っていくだけで気が滅入りそうでした…。どこまでも謎な結末が逆に心地よかったです。あと、さりげにゲームネタを忘れていない中村さんに笑いましたw

4月、それは──眠気漂う季節 俺とサランラップと春眠暁を覚えずな彼女  水瀬葉月

トリを飾る短編。他の作品に比べ、場面の転換も多く、心なしかストーリーも深みがあるような気がします。××××すると眠くなる、という特殊な性質を持つ女の子が主役なのですが、思う存分ニヤニヤさせて頂きました。つーか、こいつらのその後が普通に読んでみたいんですが。ラスト1ページ前の男の独白が、なんだか曲の間奏でボーカルが語るセリフみたいだな、と思いました。筋少みたいな感じで。


ひとつひとつの短篇は10頁に満たないものもありますが、イラストレーターを含め20人以上の方が参加していることもあり、コストパフォーマンス的にはかなりお得な一冊だったと思います。どう考えても、雑誌にこれがついて720円は安すぎる。他の電撃文庫と並べても遜色ないほど、しっかりと作ってあるのも嬉しい。買いな一冊です。