『蹴語 SIDE-A』 西尾維新

パンドラ Vol.2 SIDE-A

パンドラ Vol.2 SIDE-A

あんたは挫折したことがあるか?

なんっつーか、どっから話していいのか迷うところじゃあるんだが──いや、どこまで話すつもりかってのはそりゃちゃんと決めてるんだが、そうだな、やっぱり説明が難しいや。それはおそらく気分の問題だし、そんでもって非常に個人的な問題だし、言ってしまえばあんたにゃなんの関係もねえ、ただひたすらにオレだけの物語だ。
殺人事件の謎を解きゃしねーし、世界を救いもしねー、父親を探すわけでもねーし惚れた腫れたの話もしねー、妖怪退治もしねー上に刀集めもしねえ──家族の問題でも殺人鬼の問題でもねえ。
百万人は涙しねー。
文学賞にも縁がねー。
取り留めのねーオレバナって奴。
だけどどーだ、そういう話をするならあんただって誰だって、生きてる奴はみんなそうじゃないのか?
──西尾維新が初めて挑む、異色のスポ根小説、開幕!!


事前に予告されることもなく『パンドラvol.2 SIDE-A』の目次にいきなり名を連ねていた、西尾さんの最新作。時代劇の次はなんとなんと…スポ根モノです。いったい何のスポーツを書くのかは……ま、読んでのお楽しみと言うことで。「蹴る」ことは間違いないですけどね。
読んでみて最初に思ったのは、随所に西尾さんの挑戦意欲のようなモノが見えるような気がしたこと。スポ根モノというジャンル自体もそうなのですが…例えば主人公の語り口とか。これまでの西尾小説においては、理知的な喋り方をする、一人称が『僕』の人物が語り部を担当することがほとんどでした。んが、今回の語り部は上にも引用したとおり、オレ口調の荒っぽい感じの人物。もうこの時点で、従来の西尾ファンの方はかなり新鮮な印象を受けると思います。適度に足りない感じながら、しっかりと言葉遊びも入れてくるこの絶妙な語り口。今回の作品のために、西尾さん自身かなり研究を重ねているような気もしました。
SIDE-Aっつことで、物語自体はまだまだ導入部にしか到達していません。ていうか、これSIDE-Bで終われるのか…?取り上げられるスポーツは、日常的にアクロバティックかつ超人的な技が飛び出す(?)というとんでもないモノのようなので、これからどのような見応えあるプレイが描かれていくか楽しみ。単行本が発売された暁には、このスポーツが日本でブームを巻き起こす…かもしれないですね。それもまた楽しみです。