『トップラン&ランド完』 清涼院流水

トップラン&ランド完 (幻冬舎文庫)

トップラン&ランド完 (幻冬舎文庫)

夏以降人類消滅世界崩壊

3億円事件、かい人21面相、地下鉄サリン事件。日本の歴史を飾る大事件の裏側には、壮大なる陰謀が渦巻いていた。
あらゆる大事件と密接な関係を持ち、人類滅亡を予言する運命の男「悪王」と、彼に戦いを挑み続ける「パパさん」藤笙造。半世紀にまたがる二人の宿敵同士の戦いは、21世紀の日本を舞台に最終決戦へともつれ込む。
日本を影から支配し続けた謎の女「偉大なるフジミコ様」とは? 音羽恋子と彼女にそっくりなオランダ娘・メラニィの関係は? 貴船天使とは、貴船堕天使とは、そして…トップランドとは何なのか。
世界を閉じるべく、新たに書き下ろされた真の最終巻。流水大説の到達点「トップラン&ランド」シリーズ、ここに完結。


何年越しかでようやく読めました、トップラン&ランド完。トップランドシリーズ自体は結構前に読み終わっていたのですが、最終巻となるこの「完」だけがどうしても見つからず、歯がゆい思いをしつつ幾星霜。なんとかこの物語の全貌を知ることができて、にんともかんとも感慨深いです。
と、おそらく2010年現在、知らない方も多いと思うので、補足説明など。
このトップラン&ランド完、は、清涼院流水氏が幻冬舎文庫の書き下ろしシリーズとして展開していた「トップラン」及び「トップランド」シリーズの最終巻、という位置づけの作品です。
トップランシリーズは、2000年2月から隔月で全6巻が刊行された、いわば大河ノベルの走り的作品。2000年という節目の年をテーマに、普通の女子大生・音羽恋子と、怪しい男・貴船天使との、巨額の金を賭けた謎の人間鑑定試験・トップランテストを巡るミステリ・サスペンスが展開されていきます。
そして、トップランドとは、前記のトップラン完結の後に執筆された続編シリーズ。2001、1980、2002、1981、とトップランが完結した翌年以降を描く「現在編」と、主人公音羽恋子誕生の年以降を描いていく「過去編」を、半年に1冊のペースで交互に、そして半永久的に刊行することを主題にした作品群でした。…が、作品執筆におけるとある問題を考慮した結果、3冊目である2002でシリーズは強制的に終了。すでに物語は完結したものとして、新作は永遠に出版されないはず…でした。
が、残された様々な伏線の解答を望んだ読者は多く、2004年、遂に沈黙を破り、発表された真の最終巻がこの「完」というわけです。
さて、感想。
残された様々な謎を回収するために執筆された本書ですが、そのために今までの物語を根本から覆してしまうのは、さすがの御大と言ったところでしょうか。トップラン&ランドを読んでいなくても、この本からシリーズを始めることもできる、というのが本書の触れ込みなのですが…それはそうでしょう、語られる物語が全然違うのですからw この巻で描かれる真相で、トップラン&ランドのストーリーはまるで様変わりしてしまうので、初見の方が読んでも、全然問題はない、ということなんでしょうね。
本書のストーリー自体は、トップランの主人公・音羽恋子の父*1・藤笙造と、彼の宿敵である謎の男「悪王」との対決を中心に、二世代に渡る戦後から21世紀開幕までの物語をおっていく、というもの。トップラン&ランドは、冊数のある分物語の進行がある程度スローペースなシリーズだったのですが、そんな中、伏線を回収するために制作された本書は、比べモノにならないくらいスピーディ。シリーズを追っているときはあんまりにも話が進まないので少々もどかしいくらいだったのですが、ここまでテンポを良くされてしまうと、それはそれで物足りなかったり。「悪王」の予言が現実のものとなっていく過程や、大事件の裏側で繰り広げられた二人の対決は、是非ともじっくりページを割いた物語として、毎年どっぷり読んでみたかったなぁ。
と、その辺のことは置いておいて、Gen9が読んでいて面白かったのは、大河ノベルパーフェクト・ワールドとの符号でした。
パーフェクト・ワールドでは、運命や宿命といった言葉が物語のキーワードとなるのですが、この「完」の作中、謎の女「偉大なるフジミコ様」の口から、すでにこの観念が語られているんです。大河ノベル発表前からすでに流水さん独自の運命論は存在してたんですねー。流水さんのスタンスのブレなさが、この辺からも伝わってきました。
結末に関しては…どうなんでしょうね。自分はシリーズを読んでからだいぶ年月も経って、熱も冷めてからようやく本書を読めたので割と冷静なのですが、何年も完結を待ち続けた人が、2004年発表当時読んだときは、どんな感想を持ったのだろうか。ちょっと唐突すぎる気もするし…やっぱりもう少し時間をかけて物語が進行していれば、それに越したことはなかったのかな…。うーむ。
とま、いつも通り、読者を煙に巻いてくれるような、正真正銘流水大説な一冊でありました。これ一冊自体は、正直「読んで読んで!」と積極的にオススメはできないのですがw、前シリーズである「トップラン」は単純に面白い作品なので、流水未体験の方でも、素直に楽しむことができると思いますです。2000年に勃発した様々な事件がまるごと記録されているので、2010年という節目に、あの頃のことを懐かしみながら読むことも出来るんじゃないかな。
てか、…よくよく考えると、2000年以降に生まれた子供が、これを読んでいてもおかしくないくらい時間が経ってるんですよねー…。あれだけ未来的だったあの年が、過ぎ去ってしまえばなんと遠い昔のことか…2000年問題とか、あったなぁ…(しみじみ)。

*1:と言うのもちょっと複雑な関係なのですが、説明すると長くなるので割愛