『さよなら彦』 ウノサワスバル

さよなら彦 (講談社BOX)

さよなら彦 (講談社BOX)

忘れないで。僕がここにいたってことを――忘れないで」

双子の兄、局彦の死は、事件性のない事故、または自殺の可能性が高いと言われた。全てはその時から始まった。あるいは、その時にはもう全てが終わっていた。人間の本質をつかさどる異能者達と邂逅した双子の兄と妹は、何を得、何を喪ったのか。奪ったのは兄なのか、奪われたのは妹なのか。


「白の断章」を読んだときにも思ったのですが、大賞を取るほどになるとやはり鬼子ばかりなんだなーという印象。
作者の方がパンドラにおいて、好きな作家に上遠野浩平をあげていたのですが、なるほど、確かに影響を受けているのは見て取れます。文章の大半が、ブギーポップの語る要領を得ない呟きのようなモノで構成されているというか。例えと例えに例えを重ねていくようなカタチで、物語の要である感情世界が描写されていくので、物語中盤からの筆致が恐ろしく読みづらかった…。しかし、いや、本当に…なんなんだろう、この小説は…。座談会で寡作で終わりそうと言われた理由がわかる気がするな…w
とにかく脳髄に辿り着くのに時間のかかる文章だったことが印象的で、具体的な感想ももにょもにょーっとしてて上手いこと浮かんでこないのですが、最終的な読後感は悪くなかったと思います。自分では到底解くことの叶わない、例えばフェルマーの最終定理のような、難解な数式の解説文を読んでいたような感じ。課程を追うことは段々不可能になってくるけど、最後には結論が出るのでなんとなくすっきりするというか。うーむ、言葉に出すのが難しい…。かと言って、単純に酷評することもできないし、賞賛するのも難しいし…異次元の塊のような小説でした。とりあえず、評価星をつけるのは今回はやめておきます。この人の書く小説は、星で評価できるようなもんじゃない気がする。期待も心配もせず、今はただ、次の作品を(出るのなら)待ってみようと思います。
余談になりますけど、イラストも作者の方が描かれているのですが…普通に上手いしかなり好み。純粋に絵師としても重宝されそうだ。