『卒業〜開かずの教室を開けるとき〜』 はやみねかおる

「礼!」

三学期に入り、一気に卒業ムードが漂い始める虹北学園。岩崎三姉妹やレーチを初めとする三年生たちにも、将来という二文字が現実味を帯びてのしかかり始める。そんな中、彼らの間で、ひとつの噂が流れ出した。取り壊される旧校舎の『開かずの教室』で、かつて封印されたという亡霊、その名は『夢喰い』。そして、ふとしたことから、我らがレーチの手によってその封印が解かれてしまい…。
子ども達の『夢』を喰らう、とらえどころのない亡霊の影に怯える生徒達。四十年の歳月をかけて復活した怪物を相手に、名探偵・夢水清志郎が言い放つ真実とは?最強のジュブナイルミステリ、遂に完結!


昔の話。
中学生の少年は、ある日一冊の本と出会いました。
青い鳥文庫から発刊されていたジュブナイルミステリ、その名は「そして五人がいなくなる」。
あっという間に読み終えてしまった少年は、そのシリーズを読破するばかりか、その作者の他の本も探し回り、貪るように読み続けました。
そして、身も心もどっぷりとはやみねかおるに浸かった頃。とある雑誌に、「そして五人がいなくなる」の漫画版が掲載された、という話を聞きました。
急いで本屋さんに赴き、遂に見つけたその雑誌。今まで見たことの無いような分厚さと値段にクラクラしながら、なんとか購入し、家路につきました。
清涼院流水西尾維新佐藤友哉、滝本龍彦、乙一上遠野浩平舞城王太郎奈須きのこ渡辺浩弐竜騎士07、TAGROウエダハジメ箸井地図、x6suke、etc...
後に少年は、その雑誌に掲載された数々の作家たちによって、大きく人生を狂わされていくのですが…。
それはまた別の話。


…と、少し前置きが長くなりましたが。こんな感じで、この夢水清志郎事件ノートシリーズは、自分の活字中毒者としての道を決定づけた、大きな大きなターニング・ポイントとなる作品だったのでした*1
初めて出会ってからもう六年。初めて刊行されてからは、ゆうに15年の月日をかけた長期的なシリーズではありましたが…こうして、はっきりと終了が宣言されると…どうしても、心に来るものがあります。
と、気を取り直して、本編の感想をば。
最初からちょっと辛口なのですが、やはり初期〜中期の作品群に比べると、どうしても見劣りしてしまうかな、というのが正直な感想でした。自分にとってのナンバーワン夢水は、『機巧館のかぞえ歌』を例外とすると『亡霊は夜歩く』に落ち着くのですが…これだけ分厚いにもかかわらず、ミステリとしての要素は割と寂しく、解決編もかなりコンパクト気味。かつての、二重にも三重にも仕込まれた、子供向けにもかかわらず読み応えのあるミステリとは、到底言えないのが少々残念でした。
でも。
この『卒業』においては、ミステリとしての部分は、さほど重要ではないのでしょう。
夢水清志郎を卒業していく子ども達。そして実際に学校を卒業していく子ども達に向けた、はやみねさんのめいいっぱいのメッセージが、この作品には溢れているんですから。


最後の解決編で、夢水清志郎は、今までの禁忌を破る、とある行動に出ます。
その後に続く言葉は、ひどく残酷で容赦がないです。
けれど、優しく勇気づけてもくれます。
みんなを幸せにするのが名探偵だけれど、その後も幸せでいられるかは、自分次第なのだと。
これを読んだ子ども達が、時間がかかってもいいから、わかってくれるといいな、と思ったりしました。


さて、一応ここで終止符が打たれた夢水清志郎事件ノートですが…どうやら、そんなに悲しむ必要はないようです*2
100周年記念企画でも、何やら面白そうな作品が控えているよう。
色々気になるところですが、ひとまずはここでお別れ、ということで。
はやみねかおる先生、お疲れ様でした。そして、ありがとうございました。
そしてこれからもまた、よろしくお願いします。

*1:ちなみに、もう一つの大きなターニング・ポイントとして椎名誠さんがおらっしゃるのですが、今は置いておきます

*2:詳しくは、はやみねさんのサイトを覗いてみることをオススメします