『空ろの箱と零のマリア』 御影瑛路

空ろの箱と零のマリア (電撃文庫)

空ろの箱と零のマリア (電撃文庫)

「僕はここにいるよ」

3月。中途半端な時期にやってきた転校生。その名は音無彩矢。
その美しさに息をのむ教室の中、そんなことは意に介さず、開口一番彼女は言い放つ。
「星野一輝、私は、お前を壊すために、ここにいる」と。
星野一輝。それは紛れもなく僕の名前。
“会ったこともない”彼女が何故自分の名前を知っているのか。
そして、いわれのない敵意を向けられる意味は何なのか…。
『神栖麗奈はここに散る』から三年。おかえりなさい、御影瑛路


と言うわけで、御影瑛路is back! 実に三年の沈黙を経て、遂に電撃文庫の地へ帰ってきてくれました!やっほーい!!
…初めて自分が御影瑛路さんと出会ったのは、中学生の頃になります。当時、『最終選考で物議を醸した問題作』と、鳴り物入りでデビューされた御影瑛路氏。ラノベレーベルである電撃文庫としては初となる「イラストの付かない小説」として刊行され、これまた話題になりました。
そんな風に色々と異例な感じでデビューされた御影さんですが、当の自分はどう思っていたかというと…普通に面白いなーと思っていた、というのが正直なところでしょうか。
ネタバレになってしまうので詳しいことは書きませんが、他の電撃文庫とは一線を画す重く暗い雰囲気、人間の感情や思いを無機的に利用したガジェット、周到に張られた伏線とそれをまとめあげる解決編。その全ての要素が実にツボで、一風変わったミステリとして、楽しんで読んだ記憶があります。その証拠に『ぼくら〜』の主人公や『神栖麗奈』の性質は、今でも脳髄に刻み込まれるように、容易に思い出すことが出来ます。人間的な性質を機械的に使ったトリックが、当時の自分にはとても斬新に映ったのでしょう。あっという間に御影瑛路さんのファンになったのも束の間、その後ふっつりと刊行が途絶えたことが、どれほど悲しかったことか。電撃からはもはや見捨てられたのかと考え、『ファウスト』の登場して欲しい作家アンケートに彼の名前を書きまくったのも懐かしい思い出です*1
さて、そんなワケで、待ちに待った新シリーズ。感想ですが。
今回も、普通に面白く読ませていただきました。
三年の月日を経て、作風がひどく変化していることを危惧していたのですが、杞憂に終わりました。ダークな世界を舞台に、無味乾燥な文体で無機的に人の『想い』を料理していく、ミステリっぽい面白さは相変わらず。
しかし、一つ気が付いたことがあるとすれば。
暖かみが出てきている、ということでしょうか。
キャラクタにしても、ストーリー自体にしても。
以前の冷え切った作風から考えると、とても親しみやすい物語になったと思います。
二転三転する展開、さりげなく張られた伏線やミスリードも、以前より完成度が高く。
三年の熟成を重ねただけの結果が、この『空ろの箱と零のマリア』には、確かに現れていると思いました。
これまでの御影瑛路も当然好きですが、今作でお披露目となった新・御影瑛路は、より自分の好み。
新シリーズ、と銘打ってあるだけに、これからの彼らの活躍も、とても楽しみです。



では改めまして。
御影瑛路さん、お帰りなさい。
ずっと、帰還されるときを待っていました。
これから、またよろしくお願いします。

*1:今考えれば、彼は『ファウスト』の土壌には合わなかったような気もするけど。『メフィスト』ならありかな