『四方世界の王1 総体という名の60』 定金伸治

四方世界の王 1 総体という名の60(シュシュ) (講談社BOX)

四方世界の王 1 総体という名の60(シュシュ) (講談社BOX)

「人の悪は、廃棄されず交換されるということだ」
「ごみと同じように、そこらへ捨てられたら便利なのにね」
「背負われねばならないようにできている」

紀元前1800年。東方の地・オリエント。
四方世界の中央に位置するバービルムの書記学生・ナムルは、邪悪な空気を纏う謎めいた少女・シャズと運命的な出会いを果たす。
彼女が取る不可解な行動と、奇跡めいた不思議な力。
それらを見せつけた後、運命の女はナムルに語りかける。
曰く、「きみは、わたしの部分として包括されるために生じた、ただの欠片のひとつだ」と。
死と生の区分がまだ曖昧だった遙かなる昔。四方世界を巡る、壮大な英雄叙事詩が幕を開ける――。


と言うわけで大河ノベル2009『四方世界の王』第一巻です。
四方世界とは、バービル、アッシュ、ラルサの三国を含む、古代オリエントの別名。
戦乱の火種が消えないこの地を手に入れ滅ぼすべく、“神の欠片”の回収を続ける少女・シャズと、一見平凡そうに見えるもののその実かなり普通ではない少年・ナムルの、その初戦とも言うべき最初の戦いが描かれています。
彼女の持つ“神の欠片”や“小胞”、世界すべてを表す概念である“総体の60”など、聞き慣れないキーワードが飛び交うので、一見すると歴代の大河ノベルの中でも、かなり小難しそうな内容に見えます。しかし、いったん理論を飲み込んでしまえば、話自体はそう難解ではありません。小さな力を武器に、世界を手に入れようとする少女少年の、ちょっと捻れていて、それでいて魅力的なボーイ・ミーツ・ガールモノと言ったところでしょうか。
打算的で邪悪で、でもほんの時々年相応の表情を覗かせるシャズ。
出会ってからすぐに彼女の虜になり、欠片としての役割を全うしていくナムル。
一見、自分勝手な少女に振り回される、引っ込み思案な少年の苦労話のようにも思えますが…実は、シャズの方が、ナムルの素直すぎる対応に、調子を狂わされていたりもして。無理矢理奴隷にしたのにも関わらず妙に張り切ってるので、戸惑いを隠せないご主人様、と言ったところでしょうかw このなんだかちぐはぐな主従関係が、見ていてほんと楽しいんですよね〜。
そしてもう一つの見所は、戦いを勝利に導くための駆け引き。シャズが持つ力はまだまだ微細であるが故に、そのままぶつかっても勝つことはとても叶いません。けれど、その力も活用次第では…。初戦にして繰り広げられる計算高い頭脳戦。実に見応えがありました。
ラストには、四方世界の王候補者*1・傭兵王シャムシ=アダドもお目見えして…これがまた良いキャラしてるんですなぁ、ネタバレになるので書きませんが。
うーむ、いや先行きが純粋に楽しみでなりません。ちょっと凸凹なこの少年少女は、果たしてどこまでたどり着けるのでしょう。実は四方世界を滅ぼそうとする理由も明かされていないなど、シャズに関してはまだまだ語られていない謎がありますし…。
大河の名に相応しい、壮大な物語になることを、今から期待。

*1:つまりは好敵手