『バッカーノ!1931 臨時急行編 Another Junk Railroad』 成田良悟

「さて、楽しくも悲しい話をしよう。楽しさ、それは悲しさの裏返し……なのか? すなわち天国と地獄。鈍行と急行。ラブ&ピース! ラブッ&ッピィースッ!」

警察官は旧友の扱いに手を焼き、テロリストは部下達の行動を観察し、老夫婦は物好きな客に切符を売り、妙な男女は直前で豪華列車の旅を取りやめ、奥手のカモッリスタは恋人との関係に人知れず悩み。
黒衣の少女はおかしな男を待ち続け、殺人鬼の幼馴染みは自らの生き方を自虐し、作業着の男はいつも通りに楽しんで悲しんで、笑顔の不死者は人捜しに明け暮れ、不良少年達は新入りを救うべく動きだし、最強の殺し屋は愛しの女を追いかけNYを駆け回り、劇作家気取りの男は今はまだ舞台の上を俯瞰し。
そして副社長と新人カメラマンは、豪華列車の旅を楽しんでいた。
あの大陸横断鉄道の事件を前後したNY。舞台上に集う役者は、今日も今日とて、ひとしなみに人生を謳歌していた。
事件に関わった者もそうでない者も。日常に舞い戻る者も新たな不穏に巻き込まれる者も。
誰もがみな、延々と続く馬鹿騒ぎの中にいることに変わりはない――


バッカーノ!シリーズ最新作。

なんだかんだで、この作品の感想を書くのも一年ぶりで、感覚が戻らないと言うか何というか。なんだか勝手が違う気もしますが、頑張って書こうと思いますですはい。
さて、この作品は、他のシリーズとは少々異なる経緯で出版に至っています。ドラマCDに特典として書き下ろされた、クレアとシャーネの再会を描いた短篇『1931?回送編』。この番外小説に、成田さんが前日談・後日談エピソードを追加し、文庫したものが本書、と言うわけです。
小説を読むためだけにドラマCDを購入した人(ワタシですはい)には涙目な内容になるかと思いきや、本編自体も、アニメの影響を受け、様々なシーンが追加されていたり。ドラマCD版では、一瞬で終わったクレアvsグラハムさんのバトルも、見応えある人外共の宴*1へと変更されています。元となった『回送編』と比べて読んでみるのも、一興かも知れません。
経緯も特殊な作品ですが、内容に関しても、今までのバッカーノ!に比べると、かなり変わった雰囲気です。なんと言うのでしょう、勿論1931の後日談・前日談としての、サブエピソード的な面もあるのですが…どちらかと言うと、数あるバッカーノ!の世界に通じる、ターミナル的な役割を果たす小説だと思いました。
DVD初回特典小説として執筆された、トンプソン事件と、ジャグジー一派は回収班が遭遇した一騒ぎ。DS版に収録されている、フライングプッシーフットに人知れず乗り込んでいた、二人の不死者の一件。そして衝撃の結末を迎えたコミック版のあの二人。
本編では描かれなかった、1931にまつわる様々なエピソードの外周が、ほんの少し語られています。
元の短篇はドラマCDのオマケ。それがOVAのシナリオの元になり、更に文庫にまとまると、ゲームや特典小説を繋ぎ。
メディアミックスから生まれた作品が、このようにまたメディアミックスと関わるような形へと昇華される。
なかなか面白い道筋を辿ってるんだなーと、変なところで興味深かったりなんだりでした。
そんなわけで、完結したはずの1931の、意外な続編として書かれた当作品。ではありますが…
2002までのネタバレを多分に含んでいるので、1931直後に読むと、相当な精神的ダメージを喰らう可能性大、です。
2002までのシリーズ既刊を読み通した上で、手に取ることを強く強く、オススメいたします。

*1:て言うか、クレアの発言…まさか『ヴぁんぷ!』の人とも付き合いがあるのだろうか…