『十八時の音楽浴 漆黒のアネット』 ゆずはらとしゆき 原作:海野十三

十八時の音楽浴―漆黒のアネット (ガガガ文庫)

十八時の音楽浴―漆黒のアネット (ガガガ文庫)

“サァ甦れ眩想『昭和』
科學が奇ッ怪で卑猥だった時代ヨ!”

ごく最近、愛する妻を喪った三文小説家・甲野八十介は、時代遅れな闇市の中をふらふらと歩き回っていた。心の空洞を埋め合わせる代用品として、小説を書き続けていた彼はある日、死んだはずのかつての友人にして恋敵・鼠谷仙四郎と出会う。老人のように変わり果てた鼠谷は囁く。「露子さんに会いたかないかネ?」と。そして八十介が意識を取り戻したとき、彼の身体は暗い棺のなかに押し込まれていた。―火葬国風景
地下に広がる学園都市・ミルキ。高度に管理された独自の形態を持つその国では、毎日十八時に、国民たちに愛国心と従事欲を与える奇怪な儀式『十八時の音楽浴』が行われていた。そんなミルキ国の天才科学者(変態)である少女・コハクは、ある日大統領夫人から夕食の席へと招待される。その出来事が完璧にも思えたミルキ国を揺るがす、大事件のキッカケとなることに誰も気づかぬまま…。―十八時の音楽浴
昭和の昔、故・海野十三が書いた2つの奇想。交わらなかったはずの物語はやがて1つへと再構築され、跳訳小説(ライトノベル)として復活を遂げる。


面白いかどうかわからなければ 読んでみせよう ホトトギス (盛大に字余り)
というわけで、読んでみました。跳訳シリーズ。まずははじめの『十八時の音楽浴』。
結論から言ってしまえば、とても面白かったです。
元が昭和の科学小説なのですが、その部分をしっかり残しつつ、現代人にも読みやすいよう適度にアレンジを加えているのが感じられます。ライトノベルというよりは、ライトアンティークノベルと言うか。ラノベと言い切るには、少し違和感が残るような、独特の空気をもった小説でした。元がそうなのか、色気のあるシーンがかなり多いのですが、そこも耽美とエロの中間をふわふわ浮いているような感じ(少なくともあらすじにあるような「えっち」な感じではない)。昭和の奇妙奇天烈科学小説が好きな人は、きっと存分に楽しめると思います。
とは言え、原典を読んだことがないので、これ単体だけで語るしかないのですが。元がいったいどんな小説だったのか気になるところです。機会があれば読んでみようと思います。
あと、随所にゆずはらさんの別作品『空想東京百景』に登場するキーワードがさりげなく挿入されています。ひょっとしてこの『十八時の音楽浴』も『空想東京百景』の一部となるよう設計されているのでしょうかネェ?仮にも元は、昭和の御大のモノである小説を、自分の創る世界に組み込むとは……ゆずはらさんもなかなか喰えない作家ですネェ…?(褒め言葉です)