『パラダイス・クローズド THANATOS』 汀こるもの

パラダイス・クローズド THANATOS (講談社ノベルス)

パラダイス・クローズド THANATOS (講談社ノベルス)

立花美樹は周囲で次々と死人が出る特異体質。『死神タナトス』としてプライバシー無視でネット上に祭り上げられた結果、絶賛人間不信に陥ってしまった薄幸のヒキコモリ。
立花真樹は高校生名探偵。美樹の周囲で起こる殺人事件を解決するために社会の暗部を見続けた挙句、見事に根性がひねくれ曲がってしまった生意気小僧。
警察関係者からも『死神・探偵コンビ』と恐れられているそんな双子美少年・立花兄弟は、夏休みのとある日、彼らを護衛しているごく普通の刑事・高槻を引き連れ、ミステリ作家が所有する小笠原諸島の孤島へと招待されることになってしまう。
ミステリ作家・密室の屋敷・絶海の孤島、そして死神タナトスの存在。不吉なキーワードが満載のその場所で、3人の不安的中、やっぱり謎が謎を呼ぶ殺人事件が幕を開け…。
第37回メフィスト賞受賞作。


アンチ本格ミステリ。…いや『ぶっ壊し本格』ミステリ、とでも言うべき?
講談社ノベルスの看板ジャンルである『本格ミステリ』というジャンルを、とことんまで皮肉りまくり、かつての先人たちに喧嘩を売っているかのような作品。けれど、単なる罵倒で終わっているわけではなく、しっかりミステリとして機能しているところが憎らしいところ(笑)。有栖川さんの簡潔な推薦文が、素晴らしいほどにこの作品の内容を表していることに読了後気づいて、かなり感動しました。
今までも、西尾維新佐藤友哉などのゼロ年代作家が物語のエッセンスとして、本格を否定するような発言を登場人物に言わせていたことはあったけど、ここまで『vs本格』を意識して話を練り上げている作品はおそらくメフィスト賞史上初だと思う。
○を××しない、という話のオチは思わず「そうきますか…!」と呟かせるものがあったけど、これ一度きりのネタとしてしか通用しない気も…。来月にもシリーズの続刊の刊行が予定されてるのだけど、一体どんな内容にするつもりなのだろうか。
このシリーズは、できればずっとこんな感じの突っ張った内容で通してほしい。最初あれだけ言っておいて、途中から本格に媚びたモノになっていたらがっくり来てしまいます。講談社ノベルスの生意気作家として、これからも精進してくれることを期待したいです。


その他、気になったところ。

  • キャラの造形が受け入れられるかで読者を選びそう。自分の場合はけっこう読めました。真樹の喋り方にちょっと寒さを覚えることもあったけどね…。
  • 新本格でおなじみのミステリ講義の代替か、ストーリーのあちこちに美樹によるアクアリウム講義が挿入されています。生物ネタに興味ない人にはつらいかもなぁ…。自分はめちゃめちゃ楽しかったけど!こういうSFチックな話、ツボすぎます。
  • 漫画ネタもちらほら出てくるんですが……浦沢直樹とか北条司とかナウシカばっかだなぁ!西尾さんみたいにもっと深く広くカバーしてくれよ!…まぁ、オタクでも何でもない一般の刑事が言ってるんだから、このほうが自然と言えば自然なんだけど…*1

*1:暗黙の了解になってるけど、よくよく考えると西尾作品の登場人物たちの、漫画への造詣の深さは異常だよな…