『Cllasical Fantasy Within 第一話 ロケット戦闘機「秋水」』 島田荘司


Classical Fantasy Within 第一話 ロケット戦闘機「秋水」 (講談社BOX)

Classical Fantasy Within 第一話 ロケット戦闘機「秋水」 (講談社BOX)

戦争は、ぼくにあらゆるものを見せてくれた。

昭和20年夏、大日本帝国
戦争が風雲急を告げ、日本の敗北が日増しに濃厚になっていく、陰鬱な日々。
誰もが絶望に心を支配され、徐々に醜い下劣さを他人に振りかざし始める中、純粋無垢な少年「ぼく」だけは、「ミツグ叔父さん」から聞かされる、日本軍の、まるで空想科学の世界のような『重大機密研究』の話に毎日心を躍らせていた。
最高速は亜音速に達する「ロケット戦闘機」、そしてB29を撃ち落とす巨大兵器「怪力光線砲」といった、「ぼく」の心をくすぐる、桁外れの能力を持つ最新鋭の兵器の数々。
そして、B29がやってくることもない、よく晴れたある日。「ぼく」は長い間憧れていた、「ロケット戦闘機『秋水』」の試験飛行を、遂に目の当たりにすることができたのだが…。
島田荘司×士郎正宗が放つ、超弩級のファンタジーワールド。大河ノベル第1弾。


島田荘司御大による、大河ノベル第1弾。第1部の舞台になるのは戦時中の日本。
懐古感と近未来の技術が混ざり合ってる、昭和の『空想科学』ってだけでもうツボなのに、戦中の暗い空気と人間がさらけ出す気持ち悪さもしっかりと描いていて、さすがはこういう重いテーマを幾度も執筆している島田御大だなぁ、と感動。
『空想科学』に憧れる「ぼく」のことを、昔の自分と重ねて共感する反面、「ぼく」の周囲にまつわる人々から、薄ら寒い狂気のようなモノもわずかながら感じられて…。大いなる興奮と、少しばかりの気味の悪さが入り混じった、充実の読後感を得ることが出来ました。
キャラクタの中では、「ミツグ叔父さん」が気になって仕方ないです。今は「ぼく」のことを案じている、心優しい叔父さんである顔しか現れていないけど…。なんだか次巻以降でマッド・サイエンティストに変貌しそうで怖い…。
とにもかくにも、めちゃ面白かったです。中途半端なところで終わらなければ文句なしの星5つだったんだけどなぁ…。
さて、今刊行されてる分も急いで読まなければ。この巻は図書館で借りて済ませちゃったけど…やっぱり購入するべきかなぁ。
イラスト担当はもちろん士郎正宗氏。士郎さんの作品はまったく読んだことがないのですが*1、細部まで丹念に描き込まれていて、匠の技を感じさせます。個人的に一番好きなのは、5章ラストのイラスト。静けさと不気味さが強烈に感じられて、いい感じ。折込ピンナップのB29の機体装飾には、笑っちゃいましたけどw

*1:押井守監督の映画版は何度か観たことある