『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん3 死の礎は生』 入間人間

駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ、うん?だめだだめだだめだだめだこれ回文だ。

2月。バレンタインな季節。街では、犬やら猫やら動物を対象にした猟奇的な連続殺害事件が起こっていた。
マユがダイエットと称して自分の体を包丁で削ぐ行為を阻止した夜。僕は死んだはずの妹と出会う。
そして妹っぽいのに遭遇した翌日。学校の朝礼で僕は知る。街が再び、殺人街としての町興しを始めたことを。
中途半端にぐちゃみそにされた惨殺死体。殺されたのは、またウチの生徒。
そして、今回の立役者は…やっぱり僕の妹ということになるのだろうなぁ。


2でシリーズものとして落ち着き、同時に少し落ちたかな、と思わせましたが今回で再点火。話の核が描かれた感じ。
以前、秋山さんがみーまーを評して、

作者のなかで西尾維新がほどよく理解され、解釈され、その影響下にありつつも新しいものを作りだそうという意欲が感じられた。
秋山真琴の積読崩し 2007.09.07

とおっしゃられていて、Gen9は「にゃるほどなー」と思いつつ、じゃあその新しいものって何だろう?とシリーズを読み進めながら考えていました。で、今回でその答えが出た気がします。
※以下、モロネタバレ。あと、メチャ長文です。


すなわち、正しい世界での『戯言シリーズのシミュレート。そんなところではないかと推測します。
戯言シリーズは狂った世界で狂った登場人物が活躍するエンターティメント小説です。狂いつつも登場人物たちは己の信念を基に狂った世界を生き、事件を起こしたり解決したりしながら物語をつむいでいく、ま、そんな話だとGen9は感覚的に捉えています。
みーまーはそれの半分違い。
正しい世界で狂った登場人物が生きる物語です。
この話の世界は至って普通です。トリックに満ちた殺人事件やら、殺人鬼の一族やら、世界をすべる財閥機関やら、殺し屋の集団やら、世界を終わらせようとする敵やら、そして人類最強の請負人やら…そんな存在は少しも登場しません。狂った世界では登場人物たちも、人相応に悩みながらそれでも人並みに生きることが出来ましたが、正しい世界での彼らはそれを許されない。異端の狂人として生きていくしかありません。
この物語の主人公であるみーくんは嘘つきです。
彼は子供の頃、ある経験をしています。
同じ経験をしたまーちゃんは、そのせいで完全に壊れ、世界から見たところの異端として生きていくことを余儀なくされました。そして、彼も心の何かが欠けてしまいましたが、彼女ほどふっきることはできなかった。正気に戻ることも出来ず、狂気に行き着くことも出来ず。
だから彼は正気と狂気。その両方を騙しはぐらかしながら生きていく術を身に着けた。
これは戯言遣いとよく似てるけど、実は違う。
狂った世界で成長し、ERシステムで教育を受け、打算的でシニカル、そして優しいいーちゃんの「戯言だけどね」はもっと高度で複雑で威力がある。殺人事件の嫌疑を、その場の思いつきで説明し騙し、自分や友人の危機を切り抜ける。対処法として十分効果のある術。
だけど。
正しい世界で突然狂わされ、正気と狂気の間を揺れながら、でもそれ以外はいたって普通のみーくんの「嘘だけど」にそんな力は無い。本当に、本当に常人並の「嘘」程度の力しかない。普通の人間でも簡単に見抜こうと思えば見抜けてしまう、もろい対処法。そんな頼りのないものにすがって、正気も狂気も紙一重で煙に巻いて、高校生になる今日まで生き抜いてきたみーくん。常人のように泣くこともできず、かといって狂人のように笑い転げることも出来ない、ただ無表情で嘘にすがりつくしかない。普通の世界でそんな風に生きてきたみーくんの孤独と絶望は、果たしてどれだけのものだったのだろうか。想像することもできません。
この苦悩は、みーくんの口にしている言葉からも読み取れると思います。


「時間が癒せるのは心の傷であって、ズレでない証拠だ」

「世界を変えて生きたいなら、症状が極まればいい。事実、それに至った人たちも少しはいた」
マユとかね。「でも全てを手放して変化することに、恐れを抱く人間もあそこ(精神病院)には大勢いた」

つまり、問題そのものを取り除くのは無理だということ。
一度齟齬の起きた世界を改めるのは、不可能なんだ。
「僕もあの人たちと同じだ。世界に合わせる気はあっても、世界を変えたいとまでは思わない」


……なんか自分、言いたいことが半分もかけていないような気もする…。
……まぁ、こんな感じのことを、この本を読んで感じました。
ひとついえることは、この作品は西尾作品の影響を受けているけど、決して劣化維新ではない。この作品は「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」であって、それ以外の何者でもない。そういうことではないかと、思いました。この物語をどう完結させるかとても気になる。んですが、それと同時に、みーくんの思考と作者の思考がシンクロしすぎて、作者が壊れてしまうのではないかと少し心配しています。嘘だけど*1。頑張って生き抜いて書き抜いてください。応援しています。

その他細かい感想。

・裏表紙のまーちゃんがなんか変だな…と思ったんですが、本編をよく読んで納得。最初にチョコを作ったときの姿のようですね。
・今回の準主役とも言えるにもうとは…なんですかこれ。ツンデレって言うんですかねこんなのも。性格のブレが激しすぎて、昼と夜で精神が入れ替わるんじゃね、とか思いました。
・章扉の文章。最初は犯人の描写かと思ってたけど…オチがあった。ふははは。笑ってしまった。
・○○の△△は●●。今までのサブタイは、○に正、●に負的な言葉が入っていましたが、今回でそれが逆転。今までと違って、みーくんがほんの少しでも、生きていくためのとっかかりを見つけられたからだろうか。
・表裏、カバー裏仕様だった装丁にも今回変化が見られます。表はあらま、かわいらしい。裏はうん、ある意味怖い。カバー裏は…混沌ではなく、単純な気持ち悪さといったところでしょうかね。
・左さんのイラストは美麗でそれでいて凄みがあるなぁ。まーちゃんの、可愛らしさと狂気を両立させてるビジュアルは素晴らしい。
・キャラクタのなかではゆゆさんが一番好きかも。
乙一パロディはまたありました。
・目次が電撃文庫の他作品のパロディ。何だろう、この気持ち悪さは。他作品を取り込むことで、まるで架空の物語であることを否定してるみたいじゃないか。そうでないとしても、なかなか挑発的*2。こういう作家は嫌いじゃない。たぶんもうすでにたくさんの人がやってるだろうけど、元ネタと比較してみることにします。

章タイトル   元タイトル
一章『ぼくとマユ式バレンタイン』 『ぼくと魔女式アポカリプス』
二章『我が家の妹さま。』 我が家のお稲荷さま。
三章『とある家族の罪状目録』 とある魔術の禁書目録
四章『嘘つき少年は笑わない。けれど、』 ブギーポップは笑わない
五章『ぼくマユ』 とらドラ!*3

*1:壊れるかどうかなんてしったこっちゃねえよ、というわけではなく、壊れないと信じています、ってニュアンスですよ。念のため

*2:に見えたのは自分だけ?

*3:確定は出来ないけど、たぶんこれだと思う。