第2回 ぶらんでぃっしゅ?

ぶらんでぃっしゅ?

ぶらんでぃっしゅ?

僕がまだ、お母さんのお腹の中にいた頃聞いた謎のコトバ「ぶらんでぃっしゅ」。
全くの意味不明なこのコトバは、誕生後も僕を支配し続け、僕に出会いを別れを、夢を与え続けた。
親しい人との永遠の別れを予感する不思議な「能力」に目覚める僕。何度も僕の前に姿を見せる謎の死神ライダー。……そして、遂に現れる連続強盗殺人犯「ブラン・ディッシャー」。
自分の人生の終焉を前に、僕は感じる。「この姿を見るのは、これが最後だ」。
あなたの「ぶらんでぃっしゅ」は一体何?
メインディッシュ?
グランド一周?
また来週?
それとも……?
不思議なコトバに見初められた男の数奇な運命を描く、全編言葉遊びだらけの長編娯楽小説。


いきなりすっ飛ばして、第2回はぶらんでぃっしゅ?です。
思えば第1回は随分事情通向けの方への内容になっていて、さも流水は知ってて当然の顔をして文章を起こしてしまいました。というわけで、今回は清涼院流水をまったく知らない人に配慮した内容で書こうと思います。
その前に。
言い忘れましたが、清涼院流水の作品は総じて「流水大説」と呼ばれます。これは小説のようで小説ではない、全く別の構築方式で作られた物語である、という意味合いがあります。
そして、この考察では原則として「『流水大説』は小説ではない」として話を進めて行きたいと思います。
まず。
彼の作風にはいくつかのポイントがあります。今回はその中でもひときわ目立つ、清涼院作品における言葉遊びについて言及したいと思います。
言葉遊びはミステリの世界では古くから盛んに行われていて、ペンネームにアナグラム(ある言葉の文字を入れ替えて別の言葉を作る)を用いたり、登場人物にちょっとした駄洒落を盛り込むなど、まさに「遊び」のアクセント程度に使用されていました。
西尾維新さんの洗練された華麗な言葉遊びは有名ですし、最近は佐藤友哉さんもハイライトシーンで似たような文章を連続して続けるという技法を使用したりしています。
しかし。
流水作品における「言葉遊び」は格が違います。
タイトル、目次、人物名、会話文、素の文、その他諸々に駄洒落、アナグラムをはじめとするありとあらゆる言葉遊びをめいいっぱい、盛りに盛り込みます。それはもう手当たりしだいと言っても過言でなく、西尾作品の言葉遊びが「洗練」なら、流水作品の言葉遊びは「混沌」です。「これは……スゴイな」と思わず目を見張る言葉遊びがあるかと思えば、もはやオヤジギャグとしか言いようのない脱力系の駄洒落まで、その質と種類は実に様々。この言葉遊びの連射を受け止めることができるかどうかが、流水作品を好むか嫌うかの大きな分かれ道になると思います。
前置きが長くなりましたが。
「ぶらんでぃっしゅ?」自体の考察を。
「ぶらんでぃっしゅ?」は言葉遊びを軸にした物語です。謎のコトバ「ぶらんでぃっしゅ」が意味するものとは何なのか、その謎を探ることになった男の生涯を描いた物語です。上に挙げたのは一部で、本編ではおそらく200を越えるであろう数の「ぶらんでぃっしゅ」に似た言葉が登場し、度肝を抜かれます。更に、西尾維新森博嗣飯野賢治らがゲストとして登場、各々が考えた「ぶらんでぃっしゅ」が披露されています。
この作品は、とても一般読者に寄った内容になっていると、Gen9は思います。
他の流水大説と比べると、優等生的にとてもよくできた作品と言うか、流水を全く知らない人が手にとっても、遜色のない完成度の高い小説に仕上がっています。本編に登場する数々の言葉遊びに引かなければ、ものすごく楽しめる作品です。最後に明かされるどんでん返しも素晴らしい。一般小説のステータスで言えば文句なしに傑作の部類に入るでしょう。つまり、一言でいえば、
「ぶらんでぃっしゅ?」は“最も小説に近しい大説”である。
とGen9は勝手に分析しています。
ゆえに。
“最も普通の小説らしい”この作品で、自分が流水読者に向いてるかどうかが、大まかに判断できると思います。
もし、言葉遊びの連射に「あ〜、私はコレちょっと無理だわ……」と引きまくってしまったなら。悪いことは言いません。流水大説に関わるのは避けたほうがいいでしょう。なにしろ、他の作品では当然のように会話や素の文で、言葉遊びが乱発されるのですから。
もし、言葉遊びの連射に半ば呆れつつも「この人スゴイな……」と感動してしまったら。あなたは流水大説の読者の素質が十分にあるといえるでしょう。ぜひ別の作品に手を伸ばしてください。
ちなみに。
以前Gen9が氏のサイン会に参加したとき。流水さんに「どの作品が好きですか?」と訊かれました。そのときは非常にテンパっていて、とっさに最も完成度の高い作品である「ぶらんでぃっしゅ?」の名を挙げてしまったのですが、じつはそうじゃないのです。Gen9が最も好きな流水大説、それは……(続く)。