『四方世界の王3 40の智は水のごとく流れる』 定金伸治

四方世界の王3 40(エルバ)の智は水のごとく流れる (講談社BOX)

四方世界の王3 40(エルバ)の智は水のごとく流れる (講談社BOX)

「うるさいうるさい」

次なる戦乱の要となるシッパルに向かったシャズを、一心に追いかけるナムル。そこで待ち受けていたのは、イシュタルの15を持つ、『神の娼婦』だった。
一方、東の地では、エシュヌンナの天真爛漫な皇太子・イバルピエルと、傭兵王の息子・イシュメ=ダガンが激突する。
王を巡る戦いの準備は整い、オリエントの凪は過ぎ去った。
企む者、従う者、疑う者。様々な人間達がそれぞれの思惑を抱えながら、物語は中盤へと進んでいく……。


大河ノベル第三弾。ありがたいことに、今回から巻頭にキャラクター紹介が掲載されています。これでもうこんがらがる心配はないぞ!
新キャラクタと現状の説明に終始した二巻とはうってかわり、いよいよ四方世界の王を巡る争いが、本調子に入ってきた感があります。特に見物なのは、神懸かりの勘を持つイバルピエル君と、初登場時からかませ犬な匂いがぷんぷんするイシュメ=ダガンの戦いでしょうか。行き当たりばったりなようでいて、その実ぴったりと理にかなっている、イバルピエルの奇策がべらぼうに面白い。この人の『勘』は今のところ最強なのですが、果たしてこの才能はどこまで通用するのか。その辺も気になるところですね。
イバルピエル周辺にも言えることなのですが、この巻では、あちこちで前回までの伏線を回収しつつ、同時進行でぽつぽつと新たな伏線が張られていくので、理解と疑問がぽんぽんテンポ良く自分の中で生み出されて、とても小気味よく読めていった印象がありました。
あと思ったのは、この作品はキャラクタ自体もそうなのですが、キャラの組み合わせがとても魅力的だなーということ。主人公二人は言うまでもありませんが、奔放な皇太子と苦労人の部下、信念を貫く知事と実直に彼に付きそう女官吏、抜けてるボンボン武将と冷静沈着なお目付役、平気で仲間裏切るけど心優しい悪党と、そんな彼を憎めない少年、などなど、それぞれの凹と凸の噛み合わせ方が実に絶妙。重厚なストーリーに、良い意味で緩急をつける役割を果たしてくれていて、いやはや、読みやすくかつ楽しいんです。
個人的には、あの狂ったベタ甘傭兵王親子の登場が皆無だったのが残念。次回ではいよいよ正面から激突してくれる、らしいので、あのツンツンツンデレデレデレな娘さんの出番も多いはず、と淡い期待をしてみたいと思います。
……とね、ここまで書いてきましたけど。ぶっちゃけた話、今回は終盤のシャズこそがすべてだろJKなんて思ってる自分もいます。有り体ではあるのですが、その分直球も直球で、なんつーかもう、読んだ瞬間不覚にもぬおおおおおっと悶え転がってしまいましたよ。ラストにおいて、とある事実が確定的となってしまったシャズですが、そんなの些細なことじゃね?、と思ってしまうくらいの破壊力。定金伸治……恐ろしい子