『この世でいちばん大事な「カネ」の話』 西原理恵子

この世でいちばん大事な「カネ」の話 (よりみちパン!セ)

この世でいちばん大事な「カネ」の話 (よりみちパン!セ)

人が人であることをやめないために、人は働くんだよ。

子どもの頃。殺気立っていた街。バクチに溺れた父親。
上京。全財産の大半を母から託される。デッサンの日々。
売り込み。自分で「カネ」を稼ぎ、自由を手に入れ。
バクチにのめり込み、五千万を失い。
アジアで目にした、かつての自分と重なる、貧しい子ども達の姿。
そして、「鴨ちゃん」のこと。
最下位から戦いを挑み、人生の酸いも甘いも嗅ぎ分けた、西原理恵子がガチンコで書く「カネ」のお話。
切れば血が出る、読めば肉となる。サイバラの物語へ、ようこそ!


中学生以上を対象にした新書レーベル・よりみちパン!セより発刊された、西原さんの非漫画作品。
ないがために、人を暴力に追い込む「カネ」。
バクチという病気を抱え込ませてしまう「カネ」。
画面上で動く「カネ」と、手元にある札束としての「カネ」。
自分の半生を振り返りながら、「カネ」にまつわる様々な話を語った、サイバラ節全開の作品です。



ちょっと、自分の話になります。
小学四年生の頃でしょうか。友達と三人で、映画を見に行くことになりました。子どもだけで映画を見に行くなんて、初めてのことでした。
その帰り、昼を食べるときに自分のフトコロが足りなくなり、友達から200円ほど借りさせてもらいました。
そして後日、借りた分のお金を、しっかり返しました。
けれど、その次の日。彼は、またお金を返して欲しい、と言ってきました。
利子がついている、と言うのです。やむなく、また200円を、彼に渡しました。
それから数日後。また数日後。
小学生同士のやりとりを記録しているハズもなく、口だけの貸し借りを良いことに、彼はずっと要求を続けました。
さすがに、このままの状態はまずいと思った自分は、親に相談。子ども同士での借金についてしこたま叱られた後、親同士の話し合いで、一応彼の要求は終わりを迎えました。
この事件で一番自分がショックだったのは、彼が幼稚園時代からの、一番の親友だったこと。
友人を作るのが苦手な自分は、他のみんなが要領よく仲間を増やしていっている間も、彼だけが唯一の親友でした。
でも、彼にとっては、すでにそうではなかったのです。
今からすれば、笑ってしまうような額の少なさではありますが、当時の自分は「カネ」をやりとりすることで、彼の心内が、はっきりと見て取れた気がしました。
その事件以来、彼とは疎遠になっています。



この出来事があったからかはわかりませんが、自分の親は、「カネ」周りのことだけは、子ども達にきっちりと教育してくれました。
欲しいモノは自分の「カネ」で買う。その場で足りなくて親に出してもらう時も、どんなに長くかかろうと、ちゃんと返す。
当たり前の事ではあるのですが、かつての自分の級友達の噂を聞くに付け、このような常識とも言えることすら教わっていないケースが、かなり多いことに、驚かされたりもしました。
親の「カネ」で免許を取り、車を買い、勝手に走行させたあげくに二度も事故を起こし、家族に多大な迷惑をかけた奴とか。
みんな、驚くほど「カネ」のことをわかっていないんだな、と思いました。



この本に書かれているのは、どん底からはい上がり、「カネ」の表も裏もすべてを知り尽くした人が語る、全部が全部、本当の話です。
「カネ」を手に入れることに苦労を感じていない人、「カネ」を使うことに何の感慨もない人は、ぜひ読んで欲しい。特に、若い人ならば、なおのこと。
生きていく上で、「カネ」はどこにいってもついて回ります。「カネ」のことを、曖昧に甘く考えているならば、この先、絶対に痛い目を見ることになるでしょう。いや、一度だけならまだいいです。「カネ」に囚われ蝕まれ、わかっていても抜け出せない、負のループ地獄へとはまりこんでしまうかもしれません。
事実、自分の知り合いにも、まだ成人もしてないくせに、そんな地獄にはまりこんでいる連中は、たくさんいました。
この世でいちばん大事な「カネ」の話。
多くの人が、手に取ってくれることを願っています。