『青酸クリームソーダ <鏡家サーガ>入門編』 佐藤友哉

青酸クリームソーダ〈鏡家サーガ〉入門編 (講談社ノベルス)

青酸クリームソーダ〈鏡家サーガ〉入門編 (講談社ノベルス)

冒頭から暗黒で本当にもうしわけない。
冒頭から残酷で本当にもうしわけない。
でもさ、こういうのが好きなんでしょ?

凶人揃いの鏡家七姉弟の中で唯一、ごくごくマトモな人間という評価を頂戴している、三男・鏡公彦
単なる大学生である彼が、何気なくコンビニエンスストアへと足を運んだ夏の夜。運悪く最悪なことに、竹槍担いで殺人中の少女・灰掛めじかと、衝撃的な出会いを果たしてしまう。
彼女の殺人を目の当たりにしてしまった公彦は、血まみれの殺人鬼から、『責任』を取ることを要求される。
それは、めじかの『殺人の動機』を、一週間で探ることだった。
ここから始める、ここから始まる。<鏡家サーガ>入門編のはじまりはじまり。


ファウストvol.7にて全文掲載されたモノに、加筆修正を加えノベルス化。長編作品としては実に四年ぶりになる『鏡家サーガ』の最新作でございます。
月並みな感想でアレなのですが、佐藤友哉はやっぱり鏡家サーガが一番面白いなぁ、と改めて思ってしまう、そんな作品でした。勿論、怒りに充ち満ちた文学系作品も好きではあるのですが、青春からミステリから文学からラノベから自虐から利己から矛盾から嫌悪感から、色んなモノを詰め込んだあげくにカピカピに固めるように乾いた文体で塗りつぶしていく、この混沌とした作品群にはやっぱ敵わないなぁ、と。エネルギーが尋常じゃないもの。こんだけ面白くってぶっ壊れた小説を中学とか高校とかの時期に読んだら、そりゃ人生狂うよなぁ、としみじみ思いました*1
さて、入門編と銘打ってある当作品ですが、確かに、良くも悪くも銘打ち通りの内容になっていると思いました。鏡家七姉弟が全員揃い踏みで登場しますし、今作の主人公・公彦が挑む『馬鹿げた世界』も、シリーズを通してみれば小粒なもの。ちょっと文学方向に比重が傾いてる気もしましたが、知らない人も色眼鏡で見ている人も、体験版として手に取るにはいいんじゃないかなー。シリーズ既読済みの人からすれば、少々物足りないかもわかりませんが…*2。更なる更なる痛快で最悪な物語が読めることを期待しつつ、とりあえず佐藤さんの帰還をまずは心から喜びたいと思います。
しかし、相変わらず挟むネタが血も涙もないな…。アニメ化はまだしも、精神病院坂野良猫とか…w
それと、相変わらずユヤタンの書く妹キャラは、至高にして究極だと思いました。まる。

*1:自分のことですねわかります

*2:少なくとも、自分はフリッカー、エナメル、ピアノを読んだときのように、打ちのめされることはできませんでした