『電波女と青春男』 入間人間

電波女と青春男 (電撃文庫)

電波女と青春男 (電撃文庫)

記憶がないことが、そんなに怖いかね。
……怖いかもなぁ、やっぱり。
それってほとんど、死んでるようなものだもんなぁ。

UFOなどの目撃証言が非常に多く、故に宇宙人に見守られていると噂される町。田舎に比べれば都会なこの地で、青春ポイント獲得ミッションはスタートした。
大きく勇んで新たな生活に望む俺こと丹羽真。だが、天然爽やか娘・リュウシさんや、長身虚弱コスプレ女・前川さんなどなど、自分の人生では今まで考えられなかったほどの青春ポイント急上昇要因と、いとも簡単に遭遇してしまう。
自転車で二人で帰ったり、お昼ご飯を共にしたり。あこがれ続けた、女子との甘酸っぱい高校生活を順調にこなし、俺の青春ポイントは着実に加算を続けていくはずだった。
そう、新生活初日でいきなり遭遇してしまった、布団ぐるぐる巻きの自称・宇宙人女という、減点要因さえ考慮しなければ――!


かつて私、みーまーシリーズを評し『狂っていない世界を舞台にした戯言シリーズ』、みたいなことを言いました。
狂ってない世界で狂った人がうろつき回る。これが自分が考える、みーまーシリーズという作品群でした。
では、狂ってない世界で狂ってない人がうろつき回ったら、ごくごく普通の小説になるのか。
入間さんに限って言えば、答えはNOだったようです…。
と言うわけで、入間さんの新作(シリーズになるかは不明)『電波女と青春男』です。
最初は、『奇を衒った』のオンパレードとも言うべき、ひねくり回した文章が頭に入ってこない。中盤当たりから頭が麻痺してきて、するする読めるようになる。これが、入間さんの著作に対する自分の基本スタイル。
…ですが今作ではストーリー自体に、『みーまー』のようなイっちゃってる系雰囲気がなくなっているためか、入間さんのこの独特の文体が、良くも悪くも際だっているように思いました。駄目な人にはとことん駄目だろうし、慣れちまった人はよりいっそう文の妙を楽しめるだろうし。文章的な意味で言えば、かなり読む人を分ける作品になっていると思います。
どっちの人間かは実際に読んで判断してもらうとして、慣れちまった側である自分が言わせてもらうと、いや、普通に面白い小説でした。傑作と言うには、個人的には少し届かないかな、とは思いましたが。青春小説としては、秀作と読んで良い作品に仕上がってると思います。
て言うかね、布団ぐるぐる巻きで中身美少女、自転車に乗るときは籠に尻を突っ込んだ状態、っつーキャラ設定がヤバすぎると思いますぜ。どこをどうしたら、そういうキャラ萌えが浮かんでくるのか。自転車で連れられてるシーンがイラストでないのが本当に惜しすぎる。リュウシさんも、素で「可愛い」と思えてしまえるほど可愛い。『みーまー』のような流血沙汰は皆無なので、心から各々のキャラの魅力を味わえる、良い意味で安心できる小説でした。
ラストの丹羽君の行動に至るまでがちょっと急加速な気もしましたが(個人的にはもうちょっと電波女との掛け合いやってくれても良かった)、概ね満足できる内容。結末も少しぐずついた感はありましたが、いかにもこの人の書く青春モノって感じで、逆に好印象。気を衒いまくった『みーまー』とは方向性がまた違うので、単純には比べられませんが、個人的には入間さんにはこっち方向で頑張って欲しいなーと思いました。内容的には完結してるので、シリーズ化は難しいかもですが、ブリキさんのイラストの美麗さもあって、この作品の世界観に惚れ込み始めてる自分がいます。ぶっちゃけ、エリオがもふもふしたり、リョーシさんがあわあわ言ったり、前川さんがバタバタぶっ倒れてるところがまだまだ見たい!どうか一つ、よろしくお願いしますです。
と言うわけで、ひねくれエッヂかかった、計算ごっこの青春劇。楽しませてもらいました。
ありがとうございました。