『りべんじゃー小戦争〜まち封鎖』 小柳粒男

りべんじゃー小戦争 ~まち封鎖 (講談社BOX)

りべんじゃー小戦争 ~まち封鎖 (講談社BOX)

「癌の告知は隠さず言ってもらわなきゃつらい方なんだ。残された時間にゃやれることをやれるだけやりたいからな」

魔女の活躍により、異世界の戦は唐突に終わりを告げた。
騎士であった少年は、異世界に留まり殺し屋として生計を立て。
彼らのために奔走していた少年は、あちらとこちらをつなぐ領事官の職に就いた。
そして、やとわれバーマスターは、英語もできない分際で、何故かロシアへと足を伸ばしていた。
そうして、彼らのくうそうな日常は、幕を閉じたはずだった。
だが、魔女によって踏みにじられたあちらの人間達の怒りは、決してやむことはなく──!
戦の終結からほどなくして、日本の地に降り立つ一人の異世界人。標的は、魔女と騎士の出身地。復讐者となった彼らの手により、日常そのものであったはずの街は、くうそうの戦火に染め上げられていく……。


と言うわけで、『くうそうノンフィク日和』に続くシリーズ第2弾。『りべんじゃー小戦争』です。
まず、読み始めて思ったのは……読みにくっ!……ということでした。前作に引き続き、小柳さんの文章は相変わらず単語の組み合わせ方がちょっぴり特殊。一瞬、読み進めるのを躊躇ったりしましたが……数ページめくると慣れてしまい、するすると読んでいくことができました。ここまでの流れ、完全に前回と同じ。というか、どうも小柳さんが影響を受けた海外のハードボイルド小説が、ちょうどこのような感じの文章らしいですね。一章を読み終わる頃には、老成しつつも小気味よくお茶目な表現も飛び出す、この小柳的文章自体を純粋に楽しめるようになっていました。というか、ここまでの流れも前回と同じ。学習しろ、自分。
前作では、全編、やとわれ店長・槇井の日常から、少年少女のファンタジーがおぼろげに描かれていきましたが、今回はファンタジーが全面に押し出されてきやがってます。語り手も次々と飛び移り、世界をめちゃめちゃにされた復讐者、彼らを迎え撃つ移住者たち、そして関係なく巻き込まれていくその他の人々など、様々な視点から各々の思惑が綴られていきます。
「小戦争」、というタイトルから明らかな通り、今回は殺し合いが内容のメインです。こっち側の街で勃発する、異世界人と移住者たちの戦争。正直、「小」なんて謙遜が必要ないほどのハードな内容で、後半に差し掛かると、一般市民たちは頭や腕ふっとばされるわ、関係ない女の子は犯されるわ、車はビルにつっこむわ、相当な惨状が展開されていきます。これをいっぱしの人間が書いたら、単なる頭悪いスプラッター小説で終わるでしょう。けれど、そうはなりません。いたずらに文章を燃え上がらせず、読者を動物のようにたぎらせず、小さな炎だけをふつふつと燃えただずませるように、この物語は静かに進み、そして静かに終わっていきます。そして、この静けさが、寒い夜の煌々とした焚き火のようで、本当に心地が、いいのです。
正直、前回の感想では色々なことを大げさに書きすぎたのではないか、と少し考えるものもあったのですが、今回彼の作品をまた読んでみて、そんなことは杞憂に過ぎなかったことを改めて思い知らされたような気がしました。
ノンフィクシリーズ、不肖Gen9、胸を張ってオススメいたします。