『ハリー・ポッターと死の秘宝(上)(下)』 J・K・ローリング 松岡佑子

「ハリー・ポッターと死の秘宝」 (上下巻セット) (ハリー・ポッターシリーズ第七巻)

「ハリー・ポッターと死の秘宝」 (上下巻セット) (ハリー・ポッターシリーズ第七巻)

「もちろん、きみの頭の中で起こっていることじゃよ、ハリー。しかし、だからと言って、それが現実でないと言えるじゃろうか?」

力を取り戻し、死喰い人を集め、次第に魔法界を手中におさめていくヴォルデモート。ハリーは、彼の『不死身』を打ち破るため、仲間と共に過酷な旅へと身を投げ出す。目指すは、残る4つの分霊箱。しかし、あまりにも手がかりの少ない状況の中、時間だけが過ぎていき、ハリーたちは疲労と絶望に体を蝕まれていく。出口の見えない探索に苛立ち、壊れ始める3人の絆。次第にヴォルデモートに蝕まれていくハリーの意識。そして、誰もが知らなかった過去から浮かび上がる、ダンブルドアへの不信感…。
長い戦いと冒険の果てに、彼らは悪を打ち倒すことができるのか?そして最後に明かされる、17年前に定められたハリーの運命とは?


自分が初めて『賢者の石』を読んだのは、中学生くらいの頃。確か、流行モノ好きの母が買ってきたのを、ムリヤリ読むよう厳命されたのが最初だったと思う。それから、熱狂的ファンとは言えないものの、新刊が出るたび毎回購入し、確実に追ってきたこのシリーズ。今のところ、人生で最も長く時間をかけて読んできたシリーズなだけあって、ようやくこれにて終了と思うと、やはり感慨深いものがあります。
特筆すべき点は、やはり伏線の回収でしょう。この巻の中だけで消化されたモノから、『賢者の石』の頃に張っていた長大なモノまで含め、全編に渡り、次々とハリー、ダンブルドア、その他様々な謎が解き明かされていく様はやはり圧巻。中にはハリーたちにとっては確信のない、完全な推測としか思えない回収のしかたもあるんですが、それでもこれだけ長大な作品にあちこちばら撒いておいた伏線を、破綻させることなく綺麗にまとめあげているのは、さすがとしか。改めて、作者のストーリーテリングの能力の高さを思い知らされた気がします。常々、自分は『ハリポタはミステリである』という自説を振り回し家族から顰蹙を買っていたのですが、この最終巻を読み終わり、やっぱり自分の妄想自説に間違いはなかった!と、勘違い確信を強めるに至りました。
そして、ドラマ面においても、ずっとシリーズを追いかけてきた者にとっては、なかなか感慨深いモノが。具体的に言うなら、ロンとハーマイオニーとか、ダドリーとか、スネイプとか。一方、犠牲になった人も非常に多くて、中には自分が特に気に入っていた人物もいたりして…。最初からしてそうでしたが、最終巻だけあって、この『死の秘宝』、なかなかにハードな内容でした。
不満を挙げるなら、前半の探索が長すぎること、そしてラストの戦いからエピローグに至るまでの流れがあっさりすぎることでしょうか。特に、終盤の展開に関しては本当に残念で、たったこれだけで9年間も続いたストーリーが終わってしまうのか!?と、動揺を禁じえませんでした。色んなことに対するフォローも随分足りない気が…。終盤をしっかり時間をかけて描いてくれれば、本当に満足のいく終わり方だったのに…。それだけが、残念でした。
ところで、36章と終章のそれぞれのラストの文章、すごくいいですよね。終章のそれだけでも〆として美しいですが、36章のそれと対応させることで、更に素晴らしさが際立っていると思います。終わりよければ全て良し、というワケではありませんが、この作品を読み続けて良かったなぁと思わせるだけの力が、この〆の文にはあった気がしました
そんなわけで、ハリーポッター全7巻、足掛け9年、堪能させてもらいました。ありがとうございました。