『"文学少女"と慟哭の巡礼者』 野村美月

“文学少女”と慟哭の巡礼者 (ファミ通文庫)

“文学少女”と慟哭の巡礼者 (ファミ通文庫)

かあいそうに。
本当にかあいそうに。
きみは次に、なにを喪うんだろうねぇ。

遠子卒業も迫った1月。
それを寂しく思う一方で、ななせと初詣に行ったりと、彼女との絆を深めていく心葉。しかし、突然ななせが入院したと聞き、見舞いへと向かった心葉が目にしたのは、あの時以来、片時も忘れることはなかった一人の少女だった。心葉との再会を喜び、微笑む彼女。だが、彼女との関係が再開すると同時に、少しずつ積み上げてきた心葉と周囲の人々との絆は、急速に壊れ始める。何が嘘で、何が本当なのか。彼女が望んでいることは何なのか。そして、作家『井上ミウ』の真実とは…?
閉じられてしまった少年と少女の物語を、"文学少女"は空想する…。


相変わらず、すばらしき構成力。さすがに、ここまでくると、誰が誰かに符合するかのどんでん返しはおなじみなので、さほど驚きは少なかったのですが、それでもあちこちの伏線が終盤にしっかり回収され、ラストシーンにつながっていくのは見事としか言いようがありません!今回は、今までのシリーズの中で小出しにされていた伏線をも取り入れているので、その爽快感もいつも以上でした。
前半は、痛くてしょうがなかったです。何か企んでるのがありありとわかる美羽と、彼女の働きによって壊れていく心葉周辺の関係がもう…。
中盤で心葉と美羽の間でやりとりが進み、遠子先輩不在のままである程度決着がついたように思えたので、後半から"文学少女"が一体何を空想するのか、気になってしょうがありませんでした。
そして、終盤、彼女は見事に期待にこたえてくれました。


それなのに。


何故ラストシーンを素直に喜ぶことができなかったのだろう。
何故嘘くさいものを感じてしまったのだろう。
自分は、ハッピーエンドが大好きです。バッドエンドはできるなら見たくない、自分の好きなキャラたちには、できれば幸せな結末を迎えて欲しい。常々そう思っています。
でも一方で、ひねくれた展開を好む、スレた自分も自分の中にいたりします。
こっちの自分は、王道な展開に出くわすたび、常に顔を出してきます。そして、素直に喜びたい表のほうに、疑問を投げかけてきます。こんなできすぎた話があるかと。こんなご都合主義があるかと。
でも、大抵は表の自分のほうが圧倒的勝利を飾ります。
考えてみれば、当たり前ですよね。ひねくれた読者が多くなった現在、王道な展開を持ってくるなら、それ相応の技量と覚悟を持って作家も臨むハズですから。よほどのことがない限り、読者にマイナスイメージを与えることはないハズです。もちろん、自分も今までの"文学少女"シリーズに関しては、そうでした。けれど。
今回は、ひねた自分のほうが、わずかに勝ってしまったのです。
読んでる途中、自分は、今作はバッドエンドになることを、確信していました。
もし仮にバッドではないにしても、展望はあるけど少々後みの悪い、2巻のときのような結末になるのでは、と思っていました。
けれど実際は、すべての因子が排除される、完全無欠なエンディングで。
もう少し、時間をかければ。もし上下巻ぐらいの長めの構成だったら、もう少し素直に展開を受け止められたかもしれません。半壊から再生に至るまでのテンポが速すぎるような気がして…。
…なんだか自分で自分に罪悪感を覚えます…。
なんで素直に喜ぶことができないんだ…。
うぅ。


…でも、それでも本当に素晴らしかった。
特に、今まで隠されていた井上ミウの小説にまつわる真相と、銀河鉄道の夜との符号とが語られたときは、本気で泣くかと思いました。私的ラノベ名シーンの五本指に入ることはまず間違いないでしょう。ついついひねた意見ばかりを語ってしまいましたが、そんな些細なことは正直どうでもよくなるほどの名作でした。
いよいよ残すところ番外編+最終巻…!寂しくなってくるなぁ…。


ところで、ななせさんの破壊力も相当なものでしたが、今回個人的には一番萌えたのは、流人×千愛のカップルだったりします。
ちぃちゃんは、3巻時点で未だに仮面を貼り付けたままだったので、どうなることかと心配していたのですが、上手い具合に幸せになってくれそうで嬉しいです。次巻以降の2人が楽しみ。