『怪盗クイーン、仮面舞踏会にて ピラミッドキャップの謎 前編』『怪盗クイーンに月の砂漠を ピラミッドキャップの謎 後編』 はやみねかおる

「じゃあ、なぜ、きみはほほえむことができないんだい?」

相も変わらず仕事を全くせず、ジョーカー・RD両名にぼやかれっぱなしの怪盗クイーン。そんな半年間の充電期間を経て、久々に『怪盗の美学』に叶う獲物が見つかった。その名は『ピラミッドキャップ』。はるかな太古から存在し、そこにあるだけで様々な超常的現象を引き起こす人知を超えた存在。クイーンたちは、この獲物を盗み出すため、ドイツの森深くに“上下逆さま”にそそり立つ、通称・ウムゲケールテ・シュロス……『あべこべ城』を訪れる。そこで行われていたのは、10年に一度開催される仮面舞踏会。砂と水と番人が頑なに行く手を阻む『ピラミッドキャップ』に果敢に挑もうとするクイーンとジョーカーだが、その仮面舞踏会には、クイーンの師匠『皇帝(アンプルール)』、ICPOの『探偵卿』、さらに謎の犯罪組織『ホテルベルリン』までもが二人を待ち受けていた。
華やかな舞踏会で、互いに火花を散らす四者。更に、『ピラミッドキャップ』奪取後も、舞台をエジプトに移し、それぞれの思惑を秘めたバトルロワイヤルが繰り広げられることになるのだが…?
ファンタジーアドベンチャー『怪盗クイーン』シリーズ第四弾!

しかし。

今月は、はやみねさんは油断するとすぐ分厚くなるということを、改めて思い知った月だったなぁ…。
てなわけで、上下分冊で1000ページ弱に及ぶ大作・『怪盗クイーン ピラミッドキャップの謎』です。
今作は、話の規模がとてつもなく壮大だったり、さらに新旧のシリーズ(シリーズ外からも)キャラがあちゃこちゃ登場したり、分量に勝るとも劣らないお祭り騒ぎな作品に仕上がっています。ただ、児童書だから許されるのか、それとも原稿を削った反動か、展開にやや強引なところが…。どう考えても、漫才会話に分量を割きすぎなんだよ!楽しいけどさ!もっとやれ!!
…けれど、そんな超展開の中に時折、「宗教問題が不安定な中東」とか「ブログをやってたら確実に炎上」とか、妙に世知辛いワードがちらほら…。不穏な時代の流れなのかなぁ。自分が子供の頃はこんなことなかったのに…。
今回は『魔窟王の対決』と同じ、ファンタジックなストーリーですが、シリーズが完全にこの路線に移行したわけではなく、次回は普通に美術品を盗む話になるみたいです(あとがきより)。普段のはやみねミステリでは使えない幻想的なガジェットが今作では存分に味わえるので、『魔女の隠れ里』とか『機巧館のかぞえ唄』の雰囲気が好きな自分としては、実に満足な一冊…いや、二冊でした。
そして、今回のもうひとつの見所は、キャラクタの恋愛模様
火花を散らす四つの派閥の中、敵であるはずの相手に一目惚れしてしまうカップルが何組も登場します。それがさーいずれもお互いに相思相愛で、読んでてニヤニヤしっぱなしなんですよ!児童書ゆえのプラトニックな触れ合いが、またいい感じに魅せてくれるんですなぁ。キャラクタも、魅力的な奴が多いし。ちょっとあげてみると、仮面舞踏会を仮装パーティと勘違いして、耳・尻尾・ヒゲ・肉球をつけて狼女のコスプレで潜入しちゃったクーデレ殺し屋とか、白いドレスを憎い仇の血しぶきで染め上げると豪語する、ちょっとヤンデレ入った美少女とか。おや、なんだかこういう風に抜き出してみると、そういう類の小説に見えてきますね。不思議です。
惜しむらくは、ページの都合か、彼らの進展が尻切れトンボで終わってしまったことか…。レギュラーキャラではないだけに、次に音沙汰があるのは何作目の話になることやら…。気長に待ちたいと思います。
さらに今回は、あまり心情を出さないクイーンの、ちょっと暗い一面が垣間見えたりします。年齢も性別もわからない、何年経とうと姿が変わらない、幻惑的な空気を纏ったクイーンですが、本当は、いったい何を考えているのでしょうか。シリーズが進めば、その辺も明かされるときがくるのでしょうか。
あと、序盤のクイーンの着物姿が、なんか妙に色っぽいなと思ったりもした。性別が不明な人なので、女性的な雰囲気も持っているのは当然なのですが…。この間「クイーン ××」というアホなワードでここまでやってきていた人の気持ちが、一瞬だけわかったような気がしないこともないことも…いや、やっぱりわからないや。