『桜田家のヒミツ〜お父さんは下っぱ戦闘員〜』 柏葉空十郎

桜田家のヒミツ―お父さんは下っぱ戦闘員 (電撃文庫)

桜田家のヒミツ―お父さんは下っぱ戦闘員 (電撃文庫)

「母ちゃんの作ったハンバーグとコロッケは世界一美味しいんだ!」

20XX年。超恐慌時代。不況によって、紛争・戦争・政権の混乱などが世界で巻き起こる中、世界征服をたくらむ悪の集団・地獄十字軍が出現した。彼らは世界各地にネットワークを築き、改造人間を差し向け、人々を恐怖に陥れる。そんな彼らと戦うのが、正義の使者・ピポレンジャー。地獄十字軍とピポレンジャーは、お互いを敵と憎みあい、激しい戦いの日々を巻き起こしていた。
そんな地獄十字軍の下っぱ戦闘員が一人、桜田源之助。江戸っ子、頑固、意地っ張り。ふくよかだけど優しい奥さんと、小学5年生の息子を養うため、今日も今日とて慣れない悪の組織の一員となって汗を流していた。
そんなイマドキ珍しい家長なこの桜田家の元に、新たな家族が加わった。彼女の名前は真木麗華。地獄十字軍が世界征服の要として誘拐した、世界有数の軍需企業総帥の一人娘。
見た目は可愛いこの女の子、育ちが災いしてか、実はかなりのワガママ娘。彼女が居候となったその日から、世間ずれした下っぱ戦闘員のつつましい家庭に、嵐が吹き荒れることになる……!


第14回電撃小説大賞にて、最終選考に残った作品。
電撃文庫ではちょっと珍しい、純粋なホームドラマ的な小説です。
悪の組織の一員になって……というのは、昨今あまり珍しくない設定ですが、そこに今時見かけない頑固親父を頭とする家族の日常をジョイントさせてるのが面白い。人間関係に対する苦悩、古い外見だけど確かな夫婦の愛情、色々微妙なお年頃の少年と少女の思惑。そんなホームドラマにおける王道のモノモノに、悪の組織やら巨大軍需産業やら正義のヒーローやらと言った突飛な設定が加味されて、カオスでハートフルな素敵な物語に仕上がっています。
読んでてなんとなく読み応えが物足りなかったりもしたんですが、全編を通して描かれる、昔から続いてきたごくごく当たり前の家族の姿が、すんわり*1と心の中に入ってきます。終盤の展開には、王道ながらも少し目が潤んでしまいましたよ。
10年もの投稿と挫折を繰り返した方の作品だけあって、新人にも関わらずなんだか年季の入った香ばしい雰囲気が文章から漂っています。「最終選考で賛否両論」なるキャッチコピーが記されていましたが、これは賛否両論になるような類の小説じゃないと思います。むしろ、普通に刊行に推すべき作品でしょう。ちょっと方向性が違いますが、多くの作品ひしめく電撃文庫の中に、たまにはこんな純粋であったかい物語があっても……いいんじゃないかな?
優しいタッチのイラストも相まって、ライトノベル初心者にもオススメな作品だと思いました。


ほぼさん、またも素敵な物語を紹介してくださり、ありがとうございました!!

*1:すっきり+じんわり