『子供たち怒る怒る怒る』 佐藤友哉

子供たち怒る怒る怒る (新潮文庫)

子供たち怒る怒る怒る (新潮文庫)

殺しますよ?削ぎ取りますよ?殴り飛ばしますよ?

洪水に巻き込まれたきょうだいたちの知られざる秘密(「大洪水の小さな家」)。幼くして死んだ少女とその死体に惑わされる人々(「死体と、」)。突如教室で級友たちを殺し始める銃器を手にした少年少女(「慾望」)。連続殺人犯『牛男』の動向を予測し合う子供たち(「子供たち怒る怒る怒る」)。密室からの脱出を図る未知を知った男の子(「生まれてきてくれてありがとう!」)。痛みを忘れ、人形になり続けた少女(「リカちゃん人間」)。
歪みと痛みと怒りに満ちた、子供たちの乱撃の果てにあるものとは?
佐藤友哉、初の文学短編集。


何年か前、どこで聞いたのかはちょっと忘れたけど、佐藤友哉作品には『怒り』が根幹にある、という話を耳にしたことがあります。

というわけで、『子供たち怒る怒る怒る』です。この作品に収録されている短編のうち、最初の短編4編はあの『クリスマス・テロル』を刊行した後に書かれています。読者からの声も厳しく(ていうかあまりなく)、作家として追い詰められていた時期。更には、今まで書いてきたモノとは違う、エンターティメントな要素がない文学小説であったこともあってか、鏡家シリーズまでは根幹にしか留まっていなかったはずの『怒り』が、表層近くにまでぼこぼこ出てきています。特に表題作『子供たち怒る怒る怒る』では、最後の一滴まで抽出しきった純度100パーセントの『怒り』が、詩的で攻撃的な言葉を弾に、機関銃のごとく連射されているよう。ずぎゃぎゃぎゃぎゃ。どこにもはけ口のない怒りがぶち蒔けられ、お話自体もどこにもはけ口のないまま終了していきます。しかし、少し期間をおいてから単行本用に書き下ろした後ろ2編では一変、主人公達にも光の見える結末が用意されてたり。『生まれてきてくれて〜』にしても『リカちゃん人間』にしても。何か心境の変化でもあったのでしょうか…『怒り』がしっとりと薄まっていうように感じました。

ところで、佐藤さんの近著は、上2編のような明るいラストが待っているモノが多いです*1。作品の再評価が進んできたからでしょうか。こんなにわかりやすく自分の感情を作品に出していいのかなー、とも思いますが(苦笑)、それが佐藤作品の味かなーとも思うし。あーでもマジな話、そろそろAnger&Darkな新作が読みたいです。鏡家シリーズは毎回そういう作風なので、今度ファウストに載る鏡家中篇に期待かな…でも、今度は何に対して怒ってくれるのでしょう。楽しみです。

最近思うようになったのですが、自分は佐藤さんの小説が好き、と言うよりは、作品から垣間見える(というか筒抜けて見える)、佐藤友哉自身が好きなのかもしれない。


…なんだかちぐはぐな文章になってますね、すいません。エンタメ成分の少ない文学作品の感想書くのは難しいです。わかりにくくてごめんなさいです。

*1:バックベアード』にしても『灰色』にしても『世界』にしても