『彩紋家事件 ファースト 奇術が来りて幕を開く』 清涼院流水


あなたは「奇術の謎」を解けるでしょうか?
そして、事件の真相に辿りつけるでしょうか?

                            from 空繰記述師

1970年代後半、新世紀が開幕する20年以上も昔。
当代きっての奇術師の一族・彩紋家の3人の縁者たちが、次々と謎の死を遂げた。それも“3ヶ月連続”で“毎月19日”に“奇術に彩られ”殺されている、という奇妙な符号を残して。
設立間もない日本探偵倶楽部の若き総代・鴉城蒼司は、この奇怪極まりない事件の謎を解くために、遠路はるばる『西の京』山口の地を訪れる。
その地で行われていたのは、彩紋家の一族・曾我天水一座による奇術興行。事件と奇術の結びつきに目をつけた探偵倶楽部の精鋭たちは、捜査を始める前に、彩紋家の圧倒的な奇術の数々を目にすることにしたのだが…。
『昭和の十大犯罪』、『戦後の四大悲劇』。そして『犯罪革命』とまで称され、探偵界・犯罪界に大きな影響を与えることになる、未曾有の凶悪犯罪『彩紋家殺人事件』。
すべての悲劇のはじまりは、豪華絢爛な“奇術×サーカス”によって幕を開く…!


はい、というわけで『彩紋家事件』文庫版です。
ところで、まぁ関係ない話になるんですが、自分、この文庫版の冒頭十数ページを読んだとき「お、流水さんこれはまたハデに改訂してるな〜」と思ったんですよ。で、確認のためにノベルス版を読みに街の図書館まで行ってみたんですね。そしたらね………ほとんど文章変わってなかった、っていうね………。自分の記憶力の無さを再確認、自分で自分を羞恥プレイ、なオチでしたよ。しったかぶっただけに余計に恥ずかしい…。当時夢中で読んでたはずなのに。何故覚えていないんだ。
…と、そんなわけで、ノベルス版と比べても、ほとんど構成は変更されていません。文庫化、と言っても3分冊で冊数自体は増えてるので、合計の値段もそんなに変わってないと思います。ただ、1つ1つの『奇術の謎』が、通しナンバーをふられ、整理・提示されているので、ノベルス版より格段にわかりやすくなっているのではないかと。未読の方は、こっちを手に取ることをオススメしたいです。
で、肝心の内容ですが、まだまだプロローグと言った趣が強く、曾我天水一座の奇術サーカスのところまで、極上マジックサーカスで言うところの前半部分までしか収録されていません。
はじめてこの作品を読む方はおそらく、この本の3分の2を占める、奇術サーカスのくだりで、投げてしまう方が多いと思います。延々奇術の様が記述されているだけですからね…。しかし、この部分、実は人物の動き、舞台の描写、細かいところまで非常に丁寧に描かれており、想像力の豊かな方なら、自分も奇術サーカスに参加しているかのように読んでいくことができるでしょう。1段組で整理されていて読みやすいし。
で、感想ですが…事件の核心はまだまだ先で語られるので、全体的な感想はサード読了後に書きたいと思うんですけど…。
細かいところを1つだけ、いいですか。
…なんか、はじめのほうに出てくる鳥取砂丘カップルが、自分の中でえらい萌えて仕方ないんですよ!山咲と華音子、って言いましたっけ。部活をズル休みして2人で遊びに行く、ってなんだか微笑ましいシチュエーションでニヤニヤしてしまいます(*´▽`*) きっと、『つるみ友達』から『恋人』への段階を登ってる途中の微妙な関係なんでしょうね。そうに違いない!…この短い数ページだけで、そんなことまで妄想してしまうくらい、この2人が気になる始末です。どうしたんだ、俺。ノベルス版のときは、こんな些細なシーン、別段気にしてなかったのに(ていうか忘れてるくらいだったのに)。
あとは、装画を担当した杉本一文氏。この方、角川文庫の横溝作品の装画を担当した人なんですね…。作中で『犬神家殺人事件』や『獄門島殺人事件』に並ぶ『彩紋家殺人事件』と言われてるだけに、この方の抜擢はすばらしい判断。いい感じで、ノベルス版にはなかった、昭和の探偵小説な雰囲気が出てると思いました。
さて、セカンドの続きを読もうっと。