『エレGY』 泉和良

エレGY (講談社BOX)

エレGY (講談社BOX)

『この日記を見た女の子は
今すぐに、自分のいやらしいパンツ姿の写真を携帯で撮って、
メールで僕に送ってください!
直ちに!早く!』

フリーウェアゲーム製作の仕事をしている青年、ジスカルドこと泉和良。無料のゲームをひたすらに作り続け、オプション商品で雀の涙ほどの小金を稼ぐ、退屈で平凡な日々。灰色の世界へのストレスが限界に達した彼は、ある日自分のブログに精神錯乱さながらの文章を書き散らすことで、怒りを爆発させるに至る。
しかし書き終わった直後こそ、世界を冒涜してやったという興奮に満ちていたものの、次の日には、なんて愚かで虚しいことをしたのだろう、と自らを呆れる始末。そして、そのまま日記の記事を削除し、元の苦しい最貧生活に戻るだけ…。そのはずだった。
自分のPCに届いていた、『エレGY』を名乗る少女からの、添付ファイル付きのメールを目にするまでは…。

第2回流水大賞優秀賞を受賞した当作品。
作者の泉和良さんは、同人作品製作集団『アンディー・メンテ』に所属する、フリーウェアゲーム作家です。この『エレGY』は、泉和良さんの実体験に基づく私小説であり、本人曰く7割がノンフィクション。作中に登場するサイト、ゲームはもちろん、ヒロインである『エレGY』も実在の人物なんだそうです。
さて。この作品は恋愛小説です。かつての熱意を失い、微妙に歪みひねくれきった青年と、彼だけをずっと見つづけ生きてきた壊れやすい少女の『最強にして最弱(!?)のラブストーリー』です。
ストーリー自体は、王道をかなり踏襲しているのですが、主人公の思考・2人の関係が本当に危うく描かれていて、更にそれを描く文体さえもなんだかとても危ういという、綱どころか糸渡りをしているかのような印象を受ける作品です。
会話文やメールそのものの多用が結構多いので、人によっては嫌悪感を覚えてしまうかもしれませんが…、自分はそれ以上に壊れ気味で無邪気で愛らしい2人のやりとりが楽しくて楽しくて、あっという間に読み終えてしまいました。
小説としての完成度は、前回の受賞作品『くうそうノンフィク日和』のほうがしっかりしていると思いますし、それゆえ評価も少し落としています。とは言え、この小説も私的にはとても楽しめた作品でした。ラスト十数ページの文章には、柄にもなく感動してしまったり。あと、冒頭のブログでの暴走は、ブロガーである視点から読んでちょっと衝撃を受けたりしました。いくら陰鬱になっても、チキンな自分にはあんなマネはできない…(苦笑)。そういった意味でも、非常に印象に残る作品でした。
次回作も期待しています。あと、ゲームもやります(笑)。
ありがとうございました。

感想リンク

流水大賞『エレGY』とフリーウェアゲーム文化の話 魔王14歳の幸福な電波
こちらのサイト様は、泉さんのフリーウェアゲーム自体にも造詣が深く、興味深く読ませていただきました。Gen9のダメ感想より何倍も参考になると思います…!