『MAMA』 紅玉いづき

MAMA (電撃文庫)

MAMA (電撃文庫)

「それで、貴方は、この世界が好きなのかな」

海沿いの王国・ガーダルシア。
その地に住まう魔術師・サルバドール一族の末席を汚す少女・トトは、生まれながらにして魔力に恵まれず、『サルバドールの落ちこぼれ』と、周りから陰口を叩かれていた。
そんなある日、彼女は偶然迷い込んだ、神殿の書庫の奥深くで、数百年の長きにわたって封印されてきた『人喰いの魔物』と出会う。何百年も孤独な時をすごしてきた魔物。そんな彼の封印を解き放ってしまったトトは、彼に『ホーイチ』という名を与え、彼の『ママ』になることを決意する…。


ミミズクと夜の王(未読)』の紅玉いづきさんの新作。
人喰いの母親になった少女の物語『MAMA』と、呪いがこめられた宝物に導かれる盗人の物語『AND』の二編で構成されています。
ぶっちゃけて言うと、表題作『MAMA』を読み終わったときは、かなり肩すかしを喰らった感じでした。「あれ、こんなもん?」みたいな。巡回サイトで高い評価を出している人が多かっただけに、かなり拍子抜けしました。
「これは失敗したかなぁ」と思いながら続けて『AND』を読むと、みるみる自分の中での印象が変わっていきまして…。そのあとまた『MAMA』を読むと、大きな満足感を得ることができました。
なんでしょう「感動して涙がー!」というわかりやすいものではなくて、もっと表現しにくい心のおぼろげなところを、ざくっと突いてくる感じ。楽しいんだか悲しいんだかわからない、でも確実に心地よい感情が、自分の中にじんわりと広がっていくのを感じました。
あとがきの「愛しかなかった」という作者の苦悩にも、なんだかとても共感。小説二編とこのあとがきで、この物語は完璧に完成されているのかもしれないなぁとか、ぼんやり思いました。
今も、そしてこれからも続いていく、美しい愛の物語。堪能させていただきました。ありがとうございました。『ミミズク』も読んでみないと。