『生徒会の一存 碧陽学園生徒会議事録1』 葵せきな


「皆好きです。超好きです。皆付き合って。絶対幸せにするから」

副会長・杉崎鍵は高らかに宣言する。「生徒会メンバーを全員攻略し、ハーレムエンドを目ざす!」と。
書記・赤羽知弦はサディスティックな笑顔で口にする。「小学校の頃、初恋の相手を精神崩壊まで追い込んだ」と。
副会長・椎名深夏は熱く語る。「弱い能力で強い能力を倒すことに、読者は燃えを感じる」と。
会計・椎名真冬はオドオドと提案する。「杉崎先輩は…逆に受けがいいと思います」と。
そして、会長・桜野くりむは理不尽に言い放つ。「ただの人間には興味ありません。うちゅ(自主規制)」
これは、少しおかしな人間たちの愉快な日常をつづった、碧陽学園生徒会の活動の記録である。


いやあ面白かった。
この小説は、4人の美少女と、1人のエロ少年で構成される生徒会メンバーが、議題について話し合ったり脱線したり脱線したり脱線したりする小説です(あとがきより)。
とにかくね、主人公・杉崎鍵の性格がハンパない。上のあらすじでもう見当は付いているものと思いますが、生粋のエロゲプレイヤーで、リアルでも美少女たちを全員攻略して美少女ハーレムを作ろうと、常に妄想をかきたてている。そんなバカがこの話の主人公です。
そのほかにも、明らかにお子様な外見&中身をした会長やら、クールでモデル体型な書記やら、ボーイッシュな副会長やら、可憐な会計やら。確かにエロゲのシチュエーションっぽい、でも全員が全員濃い性格をした女の子たちが登場。こういう個性的な面子が、毎回毎回議題に沿ってテンション高いおしゃべりを繰り広げる、そんな感じでこの小説の8割は構成されています。メタ発言、ギリギリなギャグ、他レーベルへの言及、とやりたい放題やってます。
もう、それだけで腹抱えて笑えます。
が、この小説にあるものはそれだけではありません。
ここからややネタバレなので、反転(モドキ)にしておきます。
基本ギャグばかりなこの作品ですが、実は全員が全員、過去にちょっとした問題を抱えていました。5人とも、完全に傷を癒せているわけではなく、そこからの逃避という側面もあって、バカな会話を興じている。もちろん、決して形だけの空しいやりとりではないのですが、ごくたまに5人のそうした部分が顔を覗かせるときがあります。この暗い部分の描き方が、本当に等身大の高校生って感じですごく共感できるんです。
物語の終盤、鍵の過去が断片ではありますが、語られます。
彼が、そのエピソードを話すとき、詳しく聞こうとすると、彼はこういうのです。
「すいません、詳しいことは勘弁してください」と。
彼の過去は、読者に対しても、曖昧にしか語られません。「ああ、そういう感じのことがあったのか」ということがぼんやりと把握できるだけです。
昨今の小説、よくよく考えてみると、キャラクタが自分の傷を全てさらけだしてしまうってこと、多くないでしょうか。そして、それをわかった上で、友人たちは主人公を癒そうとする、という展開。もちろん、それが間違ってるわけではないけど。でも、現実には、人間ってそんな簡単に自分の傷を表に出さないでしょう?たとえどんなに大切な親友でも、いやだからこそ、全てを語ろうとはしないのではないでしょうか。
『全員が傷を抱えている』そして『5人はお互いを信頼しあっている仲間である』だけど、『己の内を完全に語りはしない』。この物語性が、とてもリアルで、自分はかなり共感してしまいました。自分でも日常、覚えがあることだったし。最初、面白いけどこれは星3つぐらいかな〜と思っていたのを星4つに変えた、最大の決め手でした。

で、星5つにしようと決意したのは、ラストの『えくすとら 創作する生徒会』を読んだとき。
このエピソードで、今までのこの物語の認識が180度、とは言わないものの60度くらいがくりとひっくり返ります。「ああ、そういうことだったのか」と全てに納得がいき、満足に本を閉じることができました。
と、まぁシリアスな部分ばかり感想を述べてしまいましたが、基本、ギャグ小説なので。少し展開に鼻がつくかもしれませんが、最後にはほっこり暖かい気持ちになって読み終えることができるはずです。『生徒会の一存』、全身全霊をこめてオススメいたします。ぜひぜひ手にとって見てください。
……ああ色々書きすぎた、わけわかめだ。言いたいことの半分も伝わってるかなぁ。あとで文章に修正入れる可能性大ですが、ご了承ください。

感想リンク。

いつも感想中さま
今日もだらだら、読書日記。さま
鍵の壊れた部屋で見る夢さま
あいも変わらず、他サイト様の感想が素晴らしすぎて、自分の文章の構成力のなさに絶望。この感想、よくわかんねーよ!って思った人は、素直に上のサイト様に飛んだほうがいいです。Gen9の感想よりも、数倍この小説の魅力が伝わるはずです。
しかし、こうして見るとギャグ面を重点的に評価している人が多いなぁ。あれ、ひょっとして俺、なんかズレてる?