『AURA〜魔竜院光牙最後の闘い〜』 田中ロミオ

AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~ (ガガガ文庫)

AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~ (ガガガ文庫)

「俺は……異世界<鏡面界>出身の最強戦士、魔竜院光牙だ!」

ごく普通の高校生(現在)であるところの佐藤一郎は、その日、忘れ物を取りに夜中の学校の中へと忍び込んだ。そこで彼がであったのは、青い衣を纏った美しい少女。その神秘的な青い魔女は、自らを<リサーチャー>と称した。彼女は、<現象界>に存在する<竜端子>を探索、回収するために<中央集積機関>より送り込まれた炭素型活動体。そして、竜端子探索における敵対勢力である、対象の論理法則をクラックすることで物理的に干渉する生命体・総和型情報体と戦っている……て、冗談じゃない。悪夢の日々はもう終わった。俺は妄想から足を洗い、完璧な高校デビューをはたしたはずだったのに!
はじけろ妄想!うなれ邪気眼!駄々漏れ中二スピリット!田中ロミオが挑む、痛さ全開の学園ラブコメ


やっべぇめちゃめちゃ面白いですこれ。
一言で言えば、日々妄想に身をやつして見えざる敵と戦い続ける、戦士たちを描いた作品。いわゆるネット上で中二病邪気眼と称されるあれ。で、そんな元・妄想戦士だった主人公・佐藤一郎が、現役ばりばりであるところの妄想戦士たちと一般ぴぃぽぅである通常生徒たちとの不毛な争いに巻き込まれていく、身に覚えがある人が読むと痛くて鳥肌ぞわぞわ立つような、妄想・電波満載の学園ラブコメ小説です。
自分も、学生時代には割と妄想ってた人間でしたが、彼らほどどっぷり浸かってはいなかったかなぁ…。確か中二の頃*1がピークで、それからは自分をはるかに凌駕する邪気眼遣い*2であるところの作家の方々に圧倒されたり、自作の小説に妄想を吐き出したりすることで、段々と冷めていき下り坂の方向へ…。そんなハンパな邪気眼遣いだった自分も、ヒロイン・良子をはじめ、彼らがそれぞれの世界に埋没して、周りを拒否して空回る姿は、なんか心にちくちく刺さってしょうがなかったです…。それでそれ以上に、共感もできてしまったんですね。作中、

妄想戦士にも本気派と見栄派の二系統があると思う。前者は自分が本気で異世界出身だと思い込んでるやつ。(略)後者、たとえば鈴木・木下・安藤などは、たぶん自分がただの高校生であることを自覚しているはずだ。やつらに共通する演技臭さは、多分人に見られたいという自己顕示欲から出ている。


という一節がありますが、自分はまさしくこの後者だった口。自分が何かの病気になってると思い込んで、常に足を引きずって歩いたり、これみよがしに中空を長時間見続けたり、鬱病のようなテンションでぼそぼそ喋ったりしてたっけなぁ…。うう、今思い返しても痛いのなんの…。
しかし、人間って、普通に生きてればある時点で、妄想に体が支配されるのが自然だよなーとも思ったりします。それが、幼稚園か小学生か中学生か高校生か、あるいはもっと先か…というだけで。だから、あのラストは、滑稽で笑ってしまったけれど、よくよく考えると実に自然なことなのかもしれませんね。ひょっとしたら、一生邪気眼遣いも悪くないかもしれない……いや、やっぱないかw
とにもかくにも、まず間違いない傑作です。よくぞこのテーマで書いてくれたものだと、田中ロミオさんには拍手喝采を送りたい気分。終盤の最後の闘いは、痛いながらも、別の意味で鳥肌モノでした。一応一発モノぽい感じになってはいますが、続きも気になるのが正直なところ。このカオス状態から、話をつなげるのはなかなかハードルが高そうな気もしますが…。ともあれ、最高でした。経験ある人もない人も、怖がらずにまずは読んでみることをオススメします!

*1:まさしく中二病

*2:無論、褒め言葉です