『乱暴と待機』 本谷有希子

乱暴と待機 (ダ・ヴィンチブックス)

乱暴と待機 (ダ・ヴィンチブックス)

いつかお兄ちゃんがきっとこの世で一番辛くて残酷な復讐を私のために思いついてくれるはずだ。たぶん。

犬の殺処分の仕事をしている山根英則は、妹・奈々瀬と一緒にアパートに住んでいた。彼らはお互いに指一本触れようとしない。必要最低限のモノしか置かれていない狭い木造アパートの一室で、息を潜めるように暮らしている。そう、まるで独房のようなその部屋で。二人にとっては、これで事足りるのだ。なぜなら二人は、復讐する者・される者、という関係だったのだから。そんな完結した二人の世界に、第三者が介入しだしたとき、歪みきった関係は少しずつ変化を始める……。
愛情関係よりももっともっと確実なつながりを祈るように求め続ける、男と女の物語。


ダ・ヴィンチに連載された小説の単行本化。
実は、自分はこの作品、連載時に一応最後まで追っかけているので、今回は再読ということになります。当時は、「ダ・ヴィンチが本気で文芸をやる!」というコピーに惹かれて、そのトップバッターとしてスタートを切ったこの作品を読んでいたのだけど、こうして一冊にまとまってから読み直すと、また違った感慨がありますね。
ジャンルを言うとしたら、なんでしょう。そのものずばり復讐小説、でしょうか。愛情ではなく、憎しみと申し訳なさ、この二つの感情でもってお互いを必要としている、不思議な男女関係の物語です。
以前、自分は「愛の反対は憎しみだ!自分は憎しみが嫌いだ!」と、子供のような論理を長々と語りました。ですが、この作品は、まさしく自分の嫌いな「憎しみ」による関係が語られているにも関わらず、それほど拒否反応を起こさず読めてしまいました。何でだろうなぁと色々考えたんですが、この二人の復讐関係がぬるいことが理由のような気がします。お互いを殺し殺され、という殺伐とした関係ではなく、「……明日は、(復讐を)思いつきそう?」「……思いつくよ、明日は」と寝る前に確認しあう、言ってみればごく平和な毎日。決して楽しく微笑ましい関係ではないんですが、どこかのっぺりとした印象がありました。それに、よく考えると「愛の裏返しで憎しみ」ではなく、最初から「憎しみ」一本による関係だから、自分の中では別次元の物語として判断されてるのかな、とも思ったり。
それと、最近『とらドラ!』にご執心状態だからかもしれませんが、この二人の関係が、なんとなく竜児と大河のそれともつながるかもなーとも思いました。いや、それぞれのベクトルは完璧真逆なんですけどね。恋愛じゃない別のモノでお互いを必要とし合っている、ているのがなんだか似通って見えて。
ラストはこれは……どうなんだろうなぁ。テーマがテーマだけに微妙ですが、自分は爽やかにこの作品を読み終えることができました。なので、自分の中ではハッピーエンドとして捉えておきたいと思います。
あと、読了後、本棚をあさくって、連載時のダ・ヴィンチをぱらぱらめくってみたんですが、かなりの加筆修正が施してあるのが見て取れました。ラストシーンだけ見ても、描写や場面がえらい違うし。最後の一文は、連載時のほうが好みだったかもなー、とも思いました。そういえば、連載時は鶴巻和哉さんの画がたっぷり見れたのも良かった。奈々瀬可愛すぎる。