『“文学少女”と死にたがりの道化』 野村美月

恥の多い生涯を送ってきました。

聖条学園の文芸部は、たったの2人しか部員のいない弱小倶楽部。1人は、かつて覆面美少女作家として名を馳せた少年・井上心葉。そしてもう一人は、部長の天野遠子。彼女は、読んだ文学作品をそのままぱりぱりと食べてしまう、小説が食料という世にも不思議な“文学少女”だった。
そんな2人の元に、ある日、彼らの後輩・竹田千愛からの恋愛相談が舞い込んでくる。
遠子さんの思い付きによって彼女の恋文代筆を引き受けることになった心葉。だが、彼女の恋の相手は、自分を仮面で飾り続けた、死にたがりの悲しい『お化け』だった…。


読み始める前まで、自分はこの作品はきっとラノベにしては、かなり近寄りがたいオーラを放っているのだろうなぁ、と思っていました。毎回表紙に登場してる遠子さんもきっと「寄らば斬る」的な、例えるなら『断章のグリム』の白野さんのような感じの人だろうと、なんとなく推測していました。
ところが、読み始めてビックリ。もっと硬い感じの文章だと思ってたのに、どこかトボけた感じの始まり方。主人公の2人も、なんか憎めないような能天気な人で。ありゃ、これは予想はずしたかな、と思いました。あらすじにもコメディって書いてあったし、ひょっとしてずっとこんな感じに進んでいくのかな、と。
ところが、後半からのシリアス展開に、前半とは違う意味で引き込まれていきまして。
…文学作品を下敷きにしているこのシリーズ、今回は太宰治の『人間失格』なのですが…。やはりかの作品にあるような、暗く、鬱屈したテーマがこくこくと綴られていきます。
…中学生の頃だったでしょうか。自分も『人間失格』を読もうとしていたことがありました。ですが、中盤まで進んだところで、古書店へと売ってしまいました。
主人公がつらつらと語る道化の人生が、自分が心の端で考えていたことと等しく重なり、読み進めるのが怖くなってしまったんです。
まさに『真っ暗な海に引きずり込まれ』るようで。
それ以来、自分の中で太宰治は禁忌の象徴のようなモノとして存在してきました。書店で見かけてもなるべく見ないように。視界に捉えぬように。
けれど、遠子さんの主張で、その認識がちょっぴりですが崩れたような気がします。
太宰作品、少しずつでもいいから読んでみよう、と。読了後、そんな風に思えるようになっていました。
…恥ずかしい話、読み終わったとき、何故か目じりに涙が浮かんでいました。


本をずっと読んでいると、時々、一心不乱に読まなくては成らない本と、出合うときがあります。
例えば中学生の頃はダレン・シャンやはやみね作品、高校生の頃は流水さんや西尾さん、佐藤さんの諸作品、それからブギーポップダブルブリッドキノの旅…etc。
そして、この“文学少女”もそんな『本』だと直感。
終わりも近いこのシリーズ。一心不乱に読ませていただきたいと思います。


…臭い内容ですいません!