『めいたん〜メイドvs名探偵〜』 樺薫

めいたん メイドVS名探偵 (ガガガ文庫)

めいたん メイドVS名探偵 (ガガガ文庫)

1930年代初頭、イギリス。K子爵家で起こった連続殺人事件は名探偵アーノルドの活躍によって解決。これをもって名門K子爵家は崩壊した。子爵婦人に仕えていて、失業の身となってしまったメイド・エヴィーはアーノルドの紹介で農園を営むC家になんとか再就職。しかし、家族やほかのメイド仲間との関係にもなれてきた頃、ハレンチ極まりない事件が勃発し…。しかも厄介なことにあのアーノルドがC家を訪れてしまった!もし事件を嗅ぎ付けられ解決されれば、またしても失業の危機!かくして「メイド道」を極めた“本物”のメイド・エヴィーの事件隠蔽と真実究明の日々が幕を開ける。


「探偵」という言葉さえ入っていればどんな作品だろうとチェックせずにはいられない重度探偵中毒者(末期)のGen9のアンテナにやっぱり引っかかってきた小説。でも、タイトルがいかにもライトノベルーな感じなので、手に取るまでにはいたらず、スルーしていました。
じゃなんで読んだか?ガガガ編集ブログの作者インタビューを見てしまったからですよ!

――樺さんの探偵小説ベスト3を教えてください。また、その理由も。
 
樺     (中略)

清涼院流水『コズミック』
 特に前半の密室卿の犯行が綴られているあたりがたまりません。
 ミステリで全体小説を志向して、ある程度以上それに成功しているな、という感触があります。全体小説は社会の全体を描き出そうとするわけですが、社会の全ての項を拾い上げていては原稿用紙が何枚あっても足りない、という困難があります。この困難は社会の各項から普遍的な部分を抽出して、それをいじくりまわす形で回避するのが常道ですが、ここで抽出される普遍性が、密室そしてそこでの殺人という、まさにミステリ的な要素である、というあたり、どこをどうやって思いついたものか、もうわけがわかりません。 

――ガガガ文庫公式サイト GAGAGA WIRE 編集部ログ 2007年8月17日より抜粋。

樺さん、あんた最高。
というわけで、作者に敬意を払うべく読んでみたわけです。
率直に言うと、期待していたようなミステリガジェットは少ない。でもメイドのなんたるかを極めたエヴィーの奮闘がとても痛快だった。名探偵へのアンチテーゼも諸所に含まれていて小気味いい。ベーカー街が名探偵の混沌界隈となってるのが面白かった。あのH探偵が探偵会社を作っているところなんか「JDCじゃん!」と心の中で叫んでしまいました。ええ、わかっています。流水好き以外には理解しがたい感情でしょうとも。
でもなー。もう少しミステリしてくれても良かったのになーという不満も少し。あと、エヴィーの鍛錬が劇中であまり生かされていないのもちょっと残念。次回作では「ばんばん殺します」と作者も言ってるので、エヴィーが拳銃や刀で活躍する痛快なアンチ探偵活劇を期待したい。
あとはタイトルをもう少しひねってほしかったかなぁ。せっかくしっかりした作品世界が組み立てられてるのに、ちょっと安直な気がしないでもなかったです。長文でごめん。