『ウルトラマン妹(シスターズ)』 小林雄次

ウルトラマン妹 (スマッシュ文庫)
小林 雄次
PHP研究所
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「私は弱いから、弱いなりの守り方しかできないんです」

就活に落ち続け、うだつのあがらない生活を送る青年・月島翔太。ある夜、妹・あかりと共に天文台で遭遇した巨大な光に、彼は呼びかけられる。体を貸して欲しいと。そして体は光に包み込まれ、果たしてウルトラマンとなった。……彼の妹が。
そう、巨大な光の正体は、光の国からやってきた女の子・ジャンヌであり、彼女は女性としか一心同体になることができなかったのだ! かくして誕生した、妹属性のウルトラマンという前代未聞の変身ヒロイン。トラブルメーカーの妹ウルトラマンに振り回される翔太に、安息の日は訪れるのか。
ウルトラシリーズの脚本家が書く、まさかの円谷公認ウルトラライトノベル、本当に誕生!

ウルトラ・プリキュアの脚本家が書く、円谷公認ライトノベル魔法少女モノのフォーマットにウルトラを入れるのはなかなか面白いんじゃないかと期待してたのですが…。ラノベを書き慣れてない人の本だなぁと印象が最後まで拭えず。

怪獣が現れる理由や、ちろっと描かれた兄妹の絆の辺りは面白かったのですが、その辺もせっかく深刻になったのに、別段主人公たちの精神的成長や戒めなんかにつながることもなく、すぐさまギャグに戻って倒してはい終わり、で解決しちゃったことにする強引ぶり。途中の『私は弱いから、弱いなりの守り方しかできないんです』というセリフにぐっときただけに、ジャンヌの弱さ、小ささがイーハトン星人を倒す決め手・キッカケになるような展開をギリギリまで期待してたんだけどなぁ。脚本畑の人だからか、時々見受けられるト書きのような描写や、「〜は別のお話」の多用による展開の省略も気になった。『無意味に自信家で常識も何も考えず相手を振り回すヒロイン』ももうお腹いっぱいだし……。

すべてギャグだと考えても、その精度もあまり高くなく。「女の子だからウルトラ『マン』じゃない」、さすがに繰り返し過ぎじゃないでしょうか……。ただギャグ系ラノベの平均値からすると、そんなに外れてもないのかなぁ……最近のギャグ系ラノベ、肌があわずあんまり読んでいないので、ギャグ系が好きな人だとまた印象も違うのかもしれない。

既存の設定利用の曖昧さは、あまり特撮ファン御用達しにしすぎるのも、という新規ファンに対する配慮だったのでしょうが、この辺は堅苦しくならない程度にちゃんとやって欲しかったなぁという所。本家の脚本家で、しかも円谷プロ公認と言われたら、少なくとも四月馬鹿ネタレベルの、秀逸な馬鹿っぷりを期待しちゃいますよ、やっぱり。

もし続編があるならお兄さんは怪獣の変身能力が残ったままだと面白そうな気がする。怪獣が羽交い絞めにしてウルトラマンが攻撃という構図は想像するとシュールだし。あと、美弥ちゃんは最初からサブヒロインポジションに出てれば、終盤のカタルシスも大きかったかもしれない。

とにもかくにも、ラノベも特撮も好きな人間から言わせてもらうと、どっちの層にアピールするにも「中途半端」という所から脱却できていないように感じました。発表当初から、かなり期待して今回の企画を待っていただけに、至極残念。